070.約束の形
「姉様は何でもかんでも抱え込みすぎです!こんなに酷くなるまで何も言わないなんて…!」
「…そうね。倒れる手前で何とかすべきよね」
「そう言う意味ではありません!せめて兄様が任務に出る前に伝えていれば…」
床に伏せる私の近くで、ルキアが静かに憤慨している。
一見矛盾した表現だが、これが一番適切だと思った。
「ルキア。白哉様には何も言わないで」
「しかし…!」
「あの人は、緋真様の事もあって…床に伏せると酷く心配させてしまうから」
その話を持ち出されてしまえば、ルキアは何も言えなくなってしまう。
病に妻を奪われた白哉が、それに対して多少過剰になる事は、当然だった。
「…姉様は、ご自身を蔑ろにしすぎています。もっとご自身を大切にしてください」
「心配かけて申し訳ないと思っているわ」
「姉様はいつもそうです。無理をして、後になって、謝ってしまう。兄様だって、案じています」
姉様は何も言わないから。
ルキアの言葉に私は苦笑した。
―――だってあなたは…私が思うこと全てを伝えてしまったら、困ってしまうでしょう?
この場には居ない彼を思い浮かべながら、そんな事を考える。
彼を困らせる事は何よりも嫌な事。
だから、私は今日も言葉を隠す。
「…いつか、姉様は…何も言わずに消えてしまうような、そんな儚ささえ感じてしまうのです」
「そんなに儚い存在ではないけれど…」
「だから姉様、約束してください」
ルキアが手ぬぐいを絞り、私の額に載せる。
「いつか…私でなくとも構いません。ちゃんと、兄様に全てを打ち明けられるようになると」
「全てを話せと?」
「少なくとも、ご自分の体調が悪い時くらいはちゃんと伝えて欲しいのです」
真剣で、誤魔化す事を許さない目。
ルキアのそれを見つめていた私は、やがて小さく息を吐き出す。
この子には敵わない、と思う。
「ルキア」
「はい」
「風邪が治ったら、一緒に椿を植えましょうか」
「椿…ですか?」
「ええ。いずれ…その椿が何度目かの花をつける頃には、その約束を果たせるように」
努力してみるわ。
言葉に出さなかったそれは、ちゃんとルキアに届いたようだ。
はい、と嬉しそうに頷いてくれた彼女に釣られるようにして、私も小さく微笑んだ。
【 約束の形 】 朽木 ルキア / 睡蓮