069.口付けの意味

「クロロ、少しいいかしら」

お伺いを立てるような内容だが、声色はそうは言っていなかっただろう。
部屋を訪ねた私に、クロロが少しばかり目を見開く。
自分でも自覚はあるけれど、よほど“いい笑顔”だったようだ。

「…どうした?その顔は」
「尋ねているのは表情の事?それとも、頬の傷の事かしら」

にっこりと笑顔を浮かべる私の頬には、人の爪で出来た二本の傷。
さほど大きくも深くもないそれは、三日ほどで目立たなくなるだろう。
滲んだ血は既に止まっているけれど、風に当たるとピリリと小さな痛みを訴えてくる。
その痛みが、私の表情をより深い笑顔へ変化させた。

「別に構わないの。ほら、私もイルミのこととか…色々とあったわけだし。放任主義なのよ、基本的には」
「…あぁ、そうだな」
「あなたがどこでどんな女と何をしていようが、気にしないの。だけどね。私、自分の身に降りかかる火の粉は払い落とす人間だから」

知ってたわよね?と確認すると、彼はあぁ、と頷いた。
まだ、私の言っている事が上手く伝わらないようだ。

「今朝、自称クロロの女が私のところを尋ねてきて、ヒステリックに叫びまくったわ」
「お前以外に女を作った覚えはないな」
「そう。過去の女だろうが未来の女だろうが、関係ないわ。後始末くらいはちゃんとしてくれない?面倒は嫌いなのよ」
「その女の傷つけられたのか?お前が?」

嘘だろう?と疑うような眼差しを向けてくるクロロ。
そりゃあ、素人に傷を付けられるほど油断はしていなかった。
けれど、相手が一人じゃなければ話は別だ。
それを伝えると、彼は不快な表情で椅子から立ち上がり、私の近くへと歩いてくる。

「片付けたのか?」
「正当防衛が通用する状況でね」
「そうか」

そう言うと、彼は私の傷を指先でなぞり、そしてスッと顔を近づけてきて。
唇に触れた感触は、いつもより少し乾燥しているように感じた。

「…今のキスは“悪かった”?それとも“愛してる”かしら?」
「さぁな」
「…じゃあ、私の都合のいいように取っておくわ」



「所で、少しくらいは妬いてくれたか?」
「妬いて欲しければ妬きやすい状況になるような相手を選んでくれる?いかにも一夜限りの女があなたに一方的に執着して殺し屋を雇ったような状況では、妬くも何もないわよ」

【 口付けの意味 】  クロロ=ルシルフル / Free

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09.12.29