053.まるで世界にふたりきりのような

柔らかく織られた襟巻は、現代で言うマフラーほどのぬくもりはない。
だが、首がむき出しの状態よりとは比べ物ならないほどに温かかった。
無理を言って少し長めに織ってもらったそれを、首に二重に巻く。
はぁ、と吐き出した息が白く濁った。

「寒いか?」

隣を歩いていた政宗が、そう問いかける。
奥州で育った彼は、この寒さには慣れているのだろう。
彼女よりもいくらか薄着に見えるが、凍えている様子はない。
もちろん、吐き出す吐息は白いけれど。

「寒くないと言えば嘘になります」
「…だろうな」

そう言って、苦笑い。
彼女の様子を見ていれば、問いかけるまでもない事だ。
それでも散歩をしたいと言ったのは彼女。
流石に、馬での遠出には難色を示したけれど。

「無理せず部屋で暖を取ればいいだろ」
「だって…少しは動かないと、身体が鈍りそうで…」
「…こんなのんびりした散歩で身体が解れるとは思わないけどな」

政宗が今まで歩いてきた道を振り向く。
漸く、城が少し小さくなった程度。
この距離を進むだけでもかなりの時間をかけている。

「…動かないと、春が恐いんです」

ふん、と少し拗ねたように視線を逃がす彼女に、政宗が肩を竦めた。
去年も似たような事を聞いた覚えがある。
意味がわからず氷景に問いかければ、彼は苦笑交じりにこう言った。

―――女ってのは体型を気にするからなぁ。

朝夕の鍛錬を欠かさないのだから、太るわけがないと言うのに。
このあたりは、男性には少し理解しにくい部分なのだろう。
まぁ、言いたい事はわからなくはないが。

「今年もしっかり積もりますね」

ふと、空を仰ぎながらそう呟く彼女。
しんしんと降り続ける雪が、足元に積もり始めている。
このまま降れば、明日には膝辺りまで積もるだろう。

「そうだな」
「雪って、不思議です。まるで世界が閉じて行くみたい」

見慣れている風景が、白に染まっていく。
大雪に馴染みのない彼女には、何年経っても不思議に思えるのだ。

「雪の中では方向感覚も狂いやすいからな」
「ええ。だから不安で…すみません、忙しいのに」

そう言って、申し訳なさそうに笑う彼女。
散歩に行きたいと言う訴えは本当に控えめで、少しでも忙しいと言う空気を感じれば、すぐにでも取り消されたであろう、願い。
その程度が聞けないわけがないと言うのに、彼女は迷惑だっただろうかと考える。
それが彼女の良い所だとは分かっているが…時々、もう少し大胆にわがままを言えばいいのに、と思う。
政宗が、ぐいっと彼女の手を取った。

「どこまで行くんだ?」
「え、っと…もう少し」

彼女の頬が赤いのは、寒さのせいだけではないだろう。

「…本当は、少し怖いんです」
「雪がか?」
「ええ。世界に、ひとりきりみたいで」
「今はふたり、だろ?」

口角を持ち上げてそう言えば、はい、と頷く彼女。
そして、手を握ったまま、政宗の腕に自身のそれを絡める。
奥手な彼女からすれば、とても珍しい思い切った行動だ。

「雪も悪くないな」
「…そうですね」

顔を合わせて、二人で微笑む。
ふたりきりの世界は寒くて、けれども温かかった。

【 まるで世界にふたりきりのような 】  伊達 政宗 / 廻れ、

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09.10.24