048.離れたりしない

「セナ達と一緒に帰るんだろ?クリフォードとは超遠距離恋愛になるんだよな」

ホテルの一室で、パンサーを交えた三人で雑談をしていた時。
ふと、クリフォードがパソコンに向き直ったのを機に、パンサーが彼女に話しかけてきた。
少し温くなってしまったコーヒーを飲みながら彼を見る。

「半分正解ね」
「半分?」
「ええ。瀬那たちと一緒に帰るのは正解」

帰るの“は”、とあえてそれを限定する彼女。
パンサーは疑問符を頭に乗せた。
彼女は彼の疑問に答える前にクリフォードを見、そしてにこりと微笑む。

「遠距離恋愛なんてガラじゃないもの」

出来ないとは思わないけれど、面倒である事は否めない。
会いたいと思った時に会えないし、これだけ距離があれば時差を考えて迂闊に電話も出来ない。
同じ日本国内ならば何とかなるのかもしれないけれど、日本とアメリカではその間に横たわる国境の壁が邪魔すぎる。

「…って事は、どう言う事?」
「こっちに来るって事」
「こっちにって…えええ!?学校は!?辞めんの!?」

パンサーが叫ぶのと同時に、クリフォードが使っていたパソコンがエラー音を響かせた。
どうやら、パスワードの入力ミスをしたらしい。
あら、と小さく声を上げる彼女。
どうやら自分は、冷静沈着な彼を動揺させるような言葉を吐いたらしい。
クスリと笑ってから、違うのよ、と説明を始めた。

「元々留学の話が出ているの。私、優秀だから」

考えていたんだけど…さっき返事を送っておいたの、と微笑む彼女。
確かに、これだけ流暢な英語を話せて、かつ頭の回転の良い彼女ならば、留学の話が出てもおかしくはない。
クリフォードはそんな事を考えながらキーを叩き、今度こそ正しいパスワードでロックを解除した。

「見た目からは想像できない行動派だな」
「考える時間は必要だけど、悩む時間は無駄だと思っているから」

悩むくらいならば行動を起こして、状況を変えた方が早いというのが彼女の自論だ。
やや呆れた様子で、けれども決して迷惑そうには見えない様子のクリフォードに笑顔を向ける。

「離れたりしないから、覚悟してね」

誰だ、日本人が慎ましいと言った奴は。
随分と面白い女に気に入られたものだ、と心中で笑う。
例えば遠距離恋愛はごめんだとこちらに行動を起こさせるような女だったり、クリフォード以外の理由もなくアメリカに来るような女であれば、興味を惹かれたりはしなかった。

「面白いな、お前」
「お褒めに預かり光栄ね」

【 離れたりしない 】  クリフォード・D・ルイス / グロリオサ

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09.10.17