047.意地っ張りの恋心
認めるものか、と思っていた。
他人との生活を送る事になり、色々とあってその人物を信頼する事になり。
そうして、それなりの時間が流れた。
過ごしていく内に、心に点ってしまった感情。
彼女は、その感情だけは認めたくないと、自分自身に背を向けていた。
―――誰かを恋い慕うなど…ありえない。
そう、思い込んで。
「随分と抵抗されますね」
「…抵抗なんて、人聞きの悪い」
使い魔の言葉に、ふと視線を逸らす。
既に形作られている感情を認めないと言い張るのは、抵抗以外の何者でもないだろう。
他者に迷惑をかけるわけではなく、自分自身への抵抗だけれど。
「蔵馬様はあんなにも素直に感情を示しておられると言うのに」
「それが逆に私を引かせている原因だとは思わない?」
「受け入れてしまえば心地よいかと」
「あんな押しの強い愛情が心地いいと思いたくはないわね」
「受身で待たれるよりはマシでしょう」
どうやら、この件に関しては、使い魔は主よりも蔵馬よりらしい。
さっさと認めてしまえという空気が前面に出ている。
「…私は、仲間としての感情だけで十分よ。望みすぎれば崩れるわ」
「………蔵馬様はきっと、そんな不安もちゃんと受け止めてくれますよ」
「そうね、そうかもしれない。でも…私は、望んでいないのよ」
仲間の存在が役に立つと思う事もある。
蔵馬の計画はとても優れていて、多少の実力不足を補って余りあるほどだ。
力はないけれど、行動力のある妖怪が集まるのも無理はないと思う。
それだけ、それを纏め上げている彼の手腕が素晴らしいと言う事なのだろう。
仲間として、上司として立てるには、最適な妖怪だった。
けれど、それ以上の事は望んでいない。
たとえ、相手が自分を望んでいるとしても。
「頑なですね」
「誇り高い九尾らしいでしょう?」
「ええ、まったくです。心を許せるものが出来たのならば、添い遂げてしまえばよろしいのに」
「嫌よ。―――まだ、ね」
いずれ、感情が理性を超える日が来るだろう。
少なくともその時までは、認めるわけにはいかないのだ。
子孫繁栄以外の目的で―――特に恋に溺れるなど、許される事ではないのだから。
これは、里を出た彼女の、九尾の狐としての最後の意地だ。
「まぁ、好きになさいませ」
「ええ」
「…無駄な足掻きになるとは思いますけれど」
「辛辣ね」
「相手は盗賊です。望むものをいつまでも野放しにしておくとは思えませんから」
こともなげにそう答えた使い魔。
窓の外を見つめた彼女は、そうね、と呟いた。
【 意地っ張りの恋心 】 使い魔 / 悠久に馳せる想い