045.囁かれた言葉

「成樹ー。シゲシゲー」

のんきな声を上げながら、成樹の自室を覗き込む。
窓が開いているのかカーテンがひらりひらりと風に揺れていた。
しかし、部屋の主である彼の姿はどこにもない。
あれ、と思いつつ室内をぐるりと見回す。
部屋の状況から考えて、すぐに戻るつもりだった事は確かだろう。
トイレか?と思いつつ廊下に戻り、リビングへと向かう。
リビングに入って三歩。
思わず足を止めた彼女の視界には、不思議な光景が広がっている。

「…何だこれ…。行き倒れたみたいに…」

廊下に足を向けて、ベランダに頭を向けて。
まるで、突然操り糸を失った人形のように、倒れたままの状態でそこに居るのは、同居人の成樹だ。
―――適度な量の血を撒いて、ついでに指先で何かの文字を書けば立派な殺人現場だな。
何となく、そんな事を思う。

「…寝てる、か」

少し信じがたいのだが、どうやら寝ているようだ。
横を向いた顔の方から彼を覗き込めば、安らかな寝顔が見えた。
本当に眠っているだけのようで、規則的な呼吸が繰り返されている。

「…この所頑張ってたからなぁ…」

こんな床の上で唐突に倒れる理由にはならないけれど…朗らかな陽気に眠気を誘われたのだろう。
苦笑を浮かべ、彼の金髪を撫でる。
先日染めたばかりの髪は、根元からしっかりと金色に染まっていて、日の光をキラキラと反射していた。

「無茶はいいけど、無理は禁物だよ。心配…するんだから」

相手が眠っているからだろう。
少しだけ、本音が零れ落ちた。
いつもならば口にしないようなそれを紡ぎ出す自分に気付き、慌てて手を引っ込める。
微動だにしない彼は、どうやらかなり深い眠りについているようだ。

「…相変わらず、男前だなぁ。……この顔は、結構気に入ってるんだよね、私」

冗談以外では言わないような事を口にして、クスリと笑う。
そして、立ち上がって毛布を持って来ようと自室へと向かった。

「ん…」

声を漏らして寝返りを打つ成樹。
起きていれば舞い上がるような言葉を聞くことが出来たのだが…それでも、彼の表情はとても安らかだった。

【 囁かれた言葉 】  藤村 成樹 / Soccer Life

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09.10.12