044.微笑むその姿が

朽木白哉という人は、表情の変化が小さい人だ。
小さすぎて、その変化がわからない人も多い事だろう。
特に仕事中の彼は険しい表情をしている事が多く、少し咎められるのでも、例えば京楽隊長に注意される数倍は厳しく取られがちだ。
尤も、彼は他人よりも身内の非に厳しい人だから、隊の中での対応がそうなるのも決して無理はない。
それは、妻である私にとっても同じだ。
公私混同などありえず、勤務中は常に気が抜けない。


偶然彼との非番が重なった今日。
さて、どのように過ごそうか、と悩んでいた私は、彼が呼んでいると声をかけてくれた侍女に続き、部屋を後にした。
縁側で本を読んでいるらしい彼は、死覇装ではなく上品な着物に身を包んでいる。
そこだけは違う空気が流れているような、一種独特の神聖さすら感じられた。
ひらり、と庭先の葉が枝を離れ、彼の元へと舞い降りる。
丁度読んでいた頁にそれが滑り込んで、彼が視線を上げた。
数日前までは青々と茂っていたそれは、次第に色を変え始めていて、紅葉の季節が近い事を教えてくれている。
ふわり、と彼が微笑んだ。
その姿に思わず呼吸を忘れる。
表情の変化が少ない彼は、特に笑みの類は恐ろしく頻度が低い。
限りなくゼロに近いそれを見せる事は殆どなく、私自身ももう数十年の付き合いだと言うのに、数えられる程度にしか見た事はない。
故に、彼の笑みを目の当たりにした衝撃は大きく、まるでその場に縫い付けられてしまったようだ。
しかし、相手は白哉。
そんな風に硬直していれば気配を消していても気付かれるのは当然で、例外なく彼が私の存在に気付く。
笑顔は既に跡形もなく消え失せていた。

「そんなところで立ち尽くして…何をしている?」
「い、いえ…そろそろ紅葉の季節だなと思っていたところです」

ギリギリの言い訳だが、決して間違いではない。
咄嗟にそう答えた私に、彼は、そうか、と視線を外した。
庭先の紅葉は、もう間もなくその全てを赤く染め上げる。
やがてその赤が落ちると、冬がやってくるのだろう。
ある意味では死後の世界に分類される尸魂界に四季があると言う事は、少し不思議な感じがした。

「今年の紅葉は少し遅い」
「そのようですね。冷夏でしたから」

彼の隣に腰を下ろし、並んで庭を見つめる。
秋が来て冬になり、そして春。
何度季節が移れば、あの笑みを自分に向けてもらえるだろうかと―――そんな事を考えながら、ゆったりとした時間を過ごした。

【 微笑むその姿が 】  朽木 白哉 / 睡蓮

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09.10.09