041.悪夢から救うのは

「…………………」
「随分と魘されていたみたいだね?」

真上から見下ろしてくる奴の髪は、重力に従わずに寧ろ逆らっている。
ハードなワックスでも使っているのだろうか、と頭の片隅で考えながら、頬に張り付いた髪を摘んだ奴の指を払う。

「汗も酷い。シャワーでもするかい?」
「…………………その前に、何か言う事はないの?」

じろり、と彼を睨みつければ、少しの間の沈黙。
やがて、彼は頬のペイントを軽く動かして笑みを浮かべた。

「おはよう★」

寝起きでも身体は満足に動くものだなと、彼の鳩尾に一発打ち込んでからそんな事を考えた。





さも当たり前のように存在している彼だが、ここは私の自宅の寝室だ。
彼が当然のように居るべき場所ではない。
この手の実力者に普通の鍵など意味はないとわかっているから、わざわざ念能力者向けの鍵をつけているのだが、今のところ全敗である。
鍵が悪いのか、一般的な念能力者の枠にはまらぬ彼が悪いのか。

「長いシャワーだったね。倒れていないかと心配したよ」
「入ってきたらシャワールームが血塗れになる所だったわ」
「だろうね」

クククッと楽しげに笑う声を聞きながら、乾かしていない髪の水気を拭う。

「で、魘されていた原因は何だい?」
「気になるの?」
「珍しいからね。君を悩ませる悪夢なら、知っておいて損はなさそうだ」
「…こっちには思い切り損になりそうな気がするわ」

はぁ、と溜め息を吐き出してから、起こされるまでに見ていた夢を思い出す。
しかし、思い出せない。
嫌な夢だったのか、気味の悪い夢だったのか…魘されるのだから、何かしら負の感情の絡む夢だった事は確かだろう。

「…忘れたわ」
「★」
「そんな顔をしても無駄よ。思い出せる夢じゃなさそうだから」

何かのきっかけで思い出せそうな夢は、何となくわかるものだ。
逆に、絶対に思い出せない夢もまた然り。
悪夢と呼べる種の夢だったのだろうから、思い出せないならそれはそれで構わない。
ヒソカは残念そうにしているけれど、そんなものは私の知った事ではないのだから。

「まぁ、思い出せないならそれでもいいよ。ある程度は予想できてるからね」
「…どう言う事?」
「さぁ★」

誤魔化すように笑みを浮かべる彼。
口元がひくりと引きつるのがわかる。
もしかすると、声に出して魘されていたのだろうか―――自分が覚えていない事を他人が知っていると言うのは、気分の良い物ではない。

「…聞いた方が良さそうな内容?」
「聞かない方が君の為だろうね」

ニコニコと笑顔を返され、そう、と肩を落とす。
聞きたいとは思うけれど、彼がそう言うのならばあえて聞かない事にしよう。

「ほら、おいでよ」
「何勝手に人のベッドに上がりこんでるの?」
「まだ睡眠時間が足りてないだろう?顔色が悪いよ」
「そりゃ、1時間程度しか寝てないから当然よ。寝直すけど、ヒソカがそこに居る必要はないでしょう」
「悪夢を見ないように添い寝をしてあげるんじゃないか★」
「別の意味で悪夢を見そうで迂闊に近寄れないんだけど」
「…うーん。あんまり聞き分けがないと、お望み通りに行動するよ?」
「………………………」

素直に彼の隣に寝転んでしまったのは、不可抗力だと思いたい。

【 悪夢から救うのは 】  ヒソカ / Carpe diem

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09.09.28