039.楽しいことも悲しいことも
「携帯がないって不便」
久しぶりに出会った親友は、元気?と言う一般的な会話の後にそう言った。
不満げに唇を尖らせる彼女に、何で?と問う。
何となく、理由はわかっているけれど。
「だって…言いたい事とか沢山あるのに…すぐに言えないでしょ。手紙だと返事が来るまでに冷める」
「あぁ…何となく、わかるわ」
“誰かと”ではなく、彼女と分かち合いたい感情がある。
そんな時は、この距離がもどかしいと思う。
現代では携帯電話は毎日手放さなかっただけに、尚更そう思うのだろう。
「この間も、凄く面白いものがあったのよ。話したかったけど、海の上だったし」
「私も…話したい事があったわ」
「その声って事は、悲しい出来事?」
「少しね。落ち込んでいたから」
政宗に気付かれて、問答無用で口を割ることになったために、今となっては落ち着いているのだが。
あの時携帯が手元にあったならば、間違いなく彼女に電話していただろう。
「はぁ~…不便だわ。今の生活が不満だとは言わないけど…あの便利さを知ってるだけに、不便。何とかならないのかしら」
「ならないわねぇ」
「…ほら、筆頭は雷属性の技が使えるでしょう?あれで電気を起こして、変換して…」
「発電機じゃないんだから、無茶言わないで。元親さんはどうなの?」
「あの人は駄目よ。炎なんて、火起こしの代わりくらいにしかならないわ」
「…酷い言い草ね」
「他が駄目だとは言ってないんだからいいでしょ。こんな事なら、電気関係の学科に進んでおくんだったわ…」
「…大学で学ぶ程度で一から作れるとは思わないけど」
「そんなの試してみないとわからないじゃない?それに…この携帯、一度は繋がったんでしょう?」
「…まぁ、そうなんだけど…。あの時は驚いたわ」
「私は何のことだかさっぱりだったわよ。今生の別れみたいで、びっくりしたし」
「あの時はそうなると思っていたのよ。忘れて」
「あはは。ま、忘れた事にしておくわ」
笑い飛ばした彼女が改めて携帯を見下ろす。
穴が開きそうなほどにじっと見つめ、解決策を模索する彼女。
そうして過ごしてもう2時間ほどになるのだが。
「諦めたら?」
「何か方法がありそうな気がするのよ」
「電波の問題だから、たぶん無理だと思うわよ」
「一度は繋がったんだから、きっと方法があるわ!」
「…アレが奇跡だと思えばいいのに」
「だって…色々と話したいのよ!元親の事とか」
そう言ってから自分で照れている彼女に、クスリと微笑む。
もしまた奇跡が起こって電波が届いたなら、彼女の惚気を聞く事になるらしい。
「ま、頑張って」
無理だろうけれど…私自身も話したい事はあるし、少しは期待しておこうと思う。
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