034.今更かもしれないけれど

付き合っていると言う自覚も言葉もなかったのに、気が付けばそう言う関係になっていた。
なっていた、と言うよりはされていたと言う方が正しいかもしれない。
初めの頃こそ違うんだといって否定していたけれど、相手の彼が否定しない事から、照れ隠しと判断されるようになってしまった。
照れちゃって、と惚気ているわけではないのにそう言われるようになってしまえば、否定すればするほど誤解が広がる。
結果として口を噤む事2年と少し。
関係は、周囲の噂により既に鋼のごとく強固なものへと変わっていた。





花梨と話をして、鷹とも話をして。
やっぱり、このままじゃいけないと思った。

「猛」

引退したはずなのに、相変わらず部の練習に出向いては後輩の指導に当たる彼を呼ぶ。
休憩中という事もあり、何の障害もなくこちらに走り出した彼は、あっという間に彼女の前にたどり着いた。

「もう用は終わったのか?」
「うん。ギリギリだって怒られた」
「それはそうだろう。すまない、もう少し指導していきたい。そうだな…あと、30分だけ」
「いいよ。待ってるから」

自分の勉強はいいの?と思ったけれど、彼に限ってそこを疎かにしていると言う事はあるまい。
現に、不安を感じている花梨はちゃんと学校が終わってから図書室で勉強に励んでいる。
漫画家を目指している彼女は、その合間にそちらの勉強もしているらしい。
ごめん、ともう一度謝罪を重ねてから、彼が後輩たちの元へと戻っていく。
羨むような視線にも、もう慣れた。
傍から見ると彼と自分はとてもお似合いで、長く続いているだけに理想のカップルらしい。
どうも宙ぶらりんな気がしてならない自分には、納得できない評価だけれど。

30分して、彼が練習を抜けた。
ありがとうございました!と頭を下げる部員に見送られ、部室に向かう。
着替えてくるから、と言う彼に、うん、と頷いた。
それから数分で部室を出てきた彼の髪は、シャワーのあと乾かしていなかったのか少し濡れている。
風邪を引くよ、と鞄からタオルを手渡せば、相変わらず爽やかな笑顔でお礼が返された。

「帰り、少しだけ時間がほしいんだけど…」
「待たせたお詫びに付き合うよ。遠回りをしようか」

そして、既に練習に励んでいる後輩を横目に、並んで校門へと歩き出す。



「出会ってから、もうすぐ3年になるんだね」

公園の中を歩きながら、ポツリとそう呟く。

「そうだな」
「正直、出会った頃は、苦手だったの」

知ってた?と少し悪戯めいた表情を浮かべて問いかける。
すると、彼は僅かに笑って、知ってた、と答えた。
その答えには、こちらの方が逆に驚かされた。

「花梨からも聞いていたし、鷹からも忠告された。だから、苦手と思われてるのは知ってたよ」
「そう…なの?」
「ステータスだけで好きになってくれる子は溢れていたから、俺を知らない子って言うだけで興味深かったんだ。始めは、それだけだった。花梨みたいに性別抜きで話し合える相手になればいいと思ってた」

ごめんな、と謝られた。
苦手な人に何度も話しかけられて迷惑だっただろう、と言われ、確かにとは言えなかった。
始めは迷惑だったけれど、でも。

「私も、色々な話をして…楽しいと思えるようになったから…」
「うん。たぶん、その頃だと思うんだ。笑ってくれるようになったのは。俺は、君の笑顔が好きになったんだよ。だから、強引だってわかっていたし、そんなつもりが無い事も知っていたけど…何度も押しかけて、周囲の噂も否定しなかった」
「そう…なの?」
「今は無理でも、いずれは振り向かせる自信があったから。その間に他の男に取られるわけにはいかないだろ?」

その笑顔は相変わらず自信に満ちているけれど、どこか緊張しているようにも見えた。
彼の表情を見て、あぁ、と納得した。
気付いていなかっただけで、ちゃんと大事にされてたんだ。
そう理解して、胸の辺りがほんのりと温かくなる。
そして、初めて…自分から、彼に向かって手を伸ばした。
ほんの少しの勇気は手を握るには足りず、袖を掴むだけになってしまったけれど。

「…ねぇ、今更かもしれないけど…。………私も、好きだよ?」

初めての告白の成果は、呆気に取られた彼の表情。
一瞬だけ見えたそれは、すぐに満面の笑みに隠されてしまった。

「それも、知ってるよ。だけど…やっぱり、嬉しいものだな」

遠回りをして時間をかけて、漸く彼と向き合う事ができたのかもしれない。

【 今更かもしれないけれど 】  大和 猛 / ガーベラ

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

09.09.18