033.微睡む夢の中
あぁ、夢だな、と何となく理解した。
根拠など何も無いのだが、言うならば、勘だ。
現実世界と変わらない、自分の部屋。
しかし、何も変わっていないと思った室内にも変化はあった。
大きすぎるベビーベッドが一つ、クイーンサイズのベッドの脇に置かれている。
まだ使っていないはずのそこから、舌足らずな声が聞こえた。
言葉ではない声だが、自分がここに居ると言う事を懸命に訴えてくるそれ。
そこに近付こうと、椅子から立ち上がろうとした、その時。
世界が変わる。
「―――…」
ビクン、と身体が揺れ、目が覚める。
ぼんやりとしていた彼女の視線が室内を巡った。
「どうかした?」
彼女の様子を不思議に思ったのか、向かいのソファーで本を読んでいたイルミが顔を上げた。
「…ううん。夢を見ただけ」
「そう」
関心が無いのか、理由がわかってどうでもよくなったのか。
彼の視線が彼女から離れる。
まだ夢から覚めきらない様子の彼女は、やや焦点の合わない目でベッド際を見つめた。
置かれているベビーベッドは、まだ未使用だ。
使われるようになるのは、2ヶ月ほど先のこと。
随分と大きくなった自分のお腹に手を当て、小さく微笑む。
パタン、と本を閉じる音が聞こえた。
向かいに居たイルミが彼女と同じソファーに移動し、その隣に腰掛ける。
一人分の体重で沈んだ左側へと傾き、ごく自然に彼の肩を借りる事となった。
「ご機嫌だね。良い夢だった?」
「そうね。幸せな感じがしたわ。実感は出来なかったんだけど」
一歩も動けず、その声が聞こえただけ。
それでも、とても幸せな夢だった。
「ねぇ、イルミ。とても楽しみなの」
「うん」
「イルミも楽しみ?」
「まぁね。キルアみたいに無鉄砲じゃないといいんだけど」
「うーん…どうかしら。生まれてこないとわからないわね。育て方のような気もするし…」
「キルアは殆ど俺が育てたようなものだよ」
「…じゃあ、同じような感じに育つかもしれないわね。考え方を変えないと」
「まぁ、いざとなったら針を―――」
「埋め込むのはやめてちょうだいね。考えただけで痛いわ」
「……………」
【 微睡む夢の中 】 イルミ=ゾルディック / Free