032.待ち合わせ

「出掛けようか」
「え?またグレッグミンスターまで帰るの?昨日迎えに来てもらったんだから、流石に…」

宿に入り、それぞれが一服をしている頃。
部屋を訪れた彼は、開口一番「出掛けようか」との誘いを口にした。
思わずそう返した彼女に、彼は苦笑いを浮かべる。

「流石に、そこまで鬼じゃないよ。ただ、町を散歩するだけ。ほら、買っておいた方がいい道具もあるだろう?」
「…そうね。じゃあ、すぐに用意をするから―――」
「噴水の前に待ち合わせよう。30分後で平気?」
「え?えぇ…大丈夫だけれど、一緒に出て行かないの?」
「うん、ちょっとね」

首を傾げた彼女を誤魔化すように綺麗な笑顔を浮かべ、じゃあ、と言葉を残して去っていく彼。
色違いの裾を持つバンダナがひらりと揺れた。

「30分後に噴水前…か」

何を考えているのかしら、と呟く。
出掛けるのならば、一緒に出発すればいいのだ。
わざわざ外で待ち合わせる理由は何だろう。
疑問は尽きないけれど、何か思うところがあっての行動なのだろうと納得しておく。
もう一度彼が去った方を見てから、荷解きを始めた。





待ち合わせの時間の5分前。
宿から数分の噴水前へと向かった彼女は、既にそこに居る彼の存在に気付く。
迷いなく彼の名を呼べば、声に気付いた彼がこちらを向いて微笑んだ。
その優しい表情が嬉しくて、少しばかり足を速めて彼に近付く。

「待たせてしまった?」
「大丈夫。早く来ていただけだよ」
「そう、それならいいのだけれど…」
「うん。じゃあ、行こうか。まずは道具からだね」

そう言った彼が、自然な動作で彼女の手を取った。
よくあることだけれど、どこか新鮮で、どきりと心臓が跳ねる。

「…ねぇ、どうして待ち合わせ場所を決めたの?」
「…偶には、こう言うのもいいかなと思ってね」
「こう言うのって…何の事?」
「同じところから出発するって言うのは…凄く近いとは思うけど。昔のことがあるからかな…仲間って感じがするんだ。こうして待ち合わせてみると、やっぱり違うなって思った。君はそう思わない?」
「…確かに、新鮮よね」
「うん。あの頃は必死で前に進んでいたから、こんな風に二人で出掛けていられなかったけど…今は、違うだろう?恋人として君を待つ時間は楽しかったよ」

告げられた言葉の意味を理解して、頬に熱が集まる。
そんな様子を見た彼は楽しげに笑った。

「いい顔だね」
「もう。からかわないで」
「ごめんごめん」
「……………私も…」
「うん?」
「…私も、恋人のあなたの待つ場所に行くのは…楽しみだったわ」

そう言った彼の表情は本当に嬉しそうで、あぁ、好きなんだなと実感する。
楽しい事ばかりではなかったけれど、こうして彼と並んでいられる今がどうしようもなく愛しかった。





「あ、あんなところに!やっと見つけた!」
「おーい、邪魔してやるなよ」
「だってあの人、目を離すとグレッグミンスターに戻っちゃうんですよ!」
「今回はあいつに頼んであるから、少しくらいは大丈夫だ。今あの空気を壊せば、魂が食われるぞ」

【 待ち合わせ 】  1主 / 水面にたゆたう波紋

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09.09.16