029.唇に触れ

「愛しているわ」

唇に触れ、愛を紡ぐ。
銀色の長い髪、視線だけで切れてしまいそうな眼差し、男らしい大きな手。
彼を構成する全てが、愛しいと思う。
言葉に出来ないほど多くのものを奪った自分が、こんなにも誰かを愛するとは思わなかった。
いつか、大切な彼を失うような気がして…少し、いや、とても怖い。

「愛しているの…セフィロス」

それ以上の言葉を飲み込むように、吐息すら奪う口付けを貰う。
ただただ、幸せだった。





「―――あら」

思わず声が零れた。
さらりとした銀髪が見えるなと思って足を進めてみれば、木に凭れる様にして彼はそこに居た。
しかし、眠っているのか彼女に気付く事はない。
フィールドで転寝とは、なんて無防備なんだろう。
セフィロスから多くのものを譲り受けているのに、まったく違う。
セフィロスはいつだって隙の無い男だった。
彼の寝顔を目にした事があるのは、世界広しと言えど自分だけだろう。

「…よく眠っているのね」

爽やかな風が彼の銀糸を柔らかく揺らしている。
寝息こそ聞こえてこないけれど、その安らかな寝顔は自然とその場の空気を和らげた。
ゆっくりと草地を踏み、彼へと近付いていく。

自分譲りの眼が閉じられていると、本当にセフィロスによく似ている。
傍らに膝をついた彼女は、ゆっくりと手を伸ばした。

「“愛しているわ”」

いつかに、セフィロスに紡いだ言葉を口にする。
セフィロスとは質は違えど、彼に向ける感情もまた、愛である事は事実だ。

「…あなたには、幸せで居てほしい」

そう遠くない未来に絶望を与えるかもしれない自分。
けれど、いつだってそう願っている。

「ごめんね。けれど…愛しているの」

そっとその髪に触れ、頭を撫でる。
そして、音もなく彼に身体を寄せ、その額に口付けた。

目の前に見ることが出来る、セフィロスが生きた証。
願わくは、彼の進む未来が明るく平和であるようにと―――




「“愛している”…か。それは、セフィロスへの言葉?それとも…」

既に小さくなった彼女の背中がそれに答える事は無い。
彼女が触れた額があたたかい。
その言葉も、とても優しい響きだった。

「ありがとうって…いつか、そう言えるかな…」

今は言えないけれど、いつかは。
そんな未来を探すように空を仰ぎ、柔らかく笑った。

【 唇に触れ 】  男主人公&セフィロス / Crimson memory

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09.09.11