027.小指を繋ぐ赤い糸
「あ、らら…」
ふと、そんな声が聞こえた。
視線を落としていた政宗が顔を上げると、何やら慌てた様子の彼女の姿が目に入る。
膝の上には、彼女がよく使っている羽織が広げられていて、繕い物をしているのだという事がわかった。
「どうした?」
「いえ、風で抜いた糸が絡まってしまって」
折角使おうと思っていたのに、と呟く彼女の視線は手元へと落とされている。
白い指先が懸命に動き、緩く絡んだ糸を解こうとしていた。
そう言えば、先程強い風が舞い込んできたな、と考えながら、腰を上げる。
大股で5歩移動して、困った様子の彼女の正面に腰を下ろした。
「解いた糸をそのままにしておくと、余計絡まるだろ」
そう言って彼の指が、何とか解けてきている糸を拾い上げる。
どうやら、絡まらないように持っていてくれるらしい。
「ありがとうございます」
「おう。さっさと解いちまえよ。本格的に絡まるぞ」
「あ、はい」
頷いた彼女は、ありがたく彼の指先を借りて糸を解いていく。
そんな作業をしていた彼女が、ふとある事に気付いた。
ぴたりと動きを止めた指先。
それに気付いた政宗が、どうした、と問う。
「…運命の赤い糸、ってご存知ですか?」
「…運命?」
「将来結ばれるべき二人は、運命の赤い糸で小指を結ばれている―――そんな、伝説ですよ」
信じていませんけど、と笑う彼女。
彼女が解いているのは、真っ赤に染められた糸だ。
赤い糸と、指先。
それらから、何となくあの伝説を思い出した。
いつの間にか動き出していた彼女の指先は、明らかに糸を解く動きをしていない。
やがて、彼女は満足げに「こんな風に」と笑った。
彼女の手が離れた政宗の小指には、赤い糸が結び付けられている。
「…結ばれてたら邪魔だろ」
「もちろん、見える糸じゃないんですよ。だから、自分の糸の先にどんな人が居るのかは、その時にならないと…いいえ、その時になってからも、わからないのかもしれません」
運命の相手と出会っていても、気付かずに結ばれているかもしれない。
彼女は楽しそうにそう語った。
政宗は自分の小指に結ばれた糸を見下ろしてから、彼女の手を引く。
軽く目を見開いた彼女が見つめる中、ものの3秒で彼女の小指にも糸を結び付けてしまった。
「何なら、このまま暮らしてみるか?」
「…もう。こう言うのは、見えなくていいんですよ。自分だけが知っていればいいんです」
そう言いながらも、彼女はその糸を解こうとはしなかった。
【 小指を繋ぐ赤い糸 】 伊達 政宗 / 廻れ、