026.恋の病につける薬なし
「あいつって綺麗に走るなぁ…」
水野は、そう言った成樹に思わず動きを止めた。
そして、彼が綺麗と言う言葉を向けた相手を探す。
成樹の視線の先に居たのは、彼と並ぶ問題児である雪耶暁斗だ。
「…は?」
「いや、綺麗やと思わん?」
綺麗と称するに値するフォームである事は確かだ。
いや、しかし。
「…男に綺麗なんて言わないだろ」
「えー?暁斗には可やと思わん?って、引かんといて、タツボン」
話をしている最中であるというのに、徐々に距離を取っていく水野に、成樹が思わずそう言った。
引くなと言われて、漸く自分が少しずつでも移動していた事に気付いた彼。
どうやら、無意識の行動だったようだ。
「男でも女でも、綺麗なもんは綺麗でええやん。ややこしいなぁ、タツボンは」
「お前な…男が男に綺麗って言われれば、相手は引くと思うぞ」
「っちゅー話をしたんやわ。暁斗はどう思う?」
「そりゃ、引くだろうな。出来れば聞きたくないだろ」
成樹は暁斗が女であると知っているから自然に受け入れてしまうけれど、もし本当に男であったならば、果たして同じ感情を抱いたのか。
いや、もしかするとこの男ならばありえるかもしれない。
暁斗は隣でコントローラーを握る成樹を盗み見る。
「せやかて、暁斗のフォームはホンマに綺麗なんやで。自分、知らんやろ」
「………(本気で言ってるから性質が悪いんだよなぁ、こいつの場合は。その辺わかってんのかねぇ)」
「暁斗ー?」
「お前ってさ…」
「ん?」
「真っ直ぐだよな」
「…変化球は得意やで?」
「うん、そう言う事じゃないね」
本人に自覚があるのかないのかは微妙だが…どこまでも真っ直ぐな心は、いつの間にか、暁斗の心に届いてしまっている。
果たして、どこまで『親友』を貫く事ができるだろうか。
恐らくは気付いていない彼自身から、暑苦しいほどに飛んでくる感情を思いながら、コントローラーを握りなおした。
【 恋の病につける薬なし 】 佐藤 成樹 / Soccer Life