025.吐息の行方

改めて記入した数字を見下ろし、溜め息を吐き出す。
この所、襲ってくる妖怪の数が増える一方だ。

頭の痛い問題ね。

そう言う事を考えていると、自然と口から溜め息が零れ落ちてしまうものだ。
新たに零れ落ちるはずだった溜め息が、後ろから伸びてきた手に吸い込まれた。

「んー?」

後ろから抱きしめられるようにして、口を手で塞がれる。
ほんの少しだけ頭を動かしてみれば、自分を見下ろす蔵馬が居た。
尤も、この部屋の中に居るのは彼だけで、そして、自分にこんな事をできるのも彼以外にはありえないのだ。

「溜め息をつくと幸せが逃げるって知ってる?」
「知ってても、信じてないわ」

手を解いた蔵馬にそう答えると、彼は楽しそうに「そうなんだ?」と笑った。

「君から幸せが逃げるのは困るんだ」
「逃げた分、あなたが幸せをくれるんでしょう?」
「まぁ、そうなんだけどね。でも、逃げられるのは嫌だから…」

そう言った彼の指先が、彼女の顎を掬う。
喉を思い切り伸ばすようにして上を向かされた彼女の視界に、逆さまの蔵馬の顔が映った。
彼の顔が近付いて、そして。

「―――逃げられる前に、俺が取り込んでおこうか?」
「………溜め息、ついてないけど」
「吐息も溜め息も似たようなものだよ」
「…要するに…放っておいたら駄目なのね」

彼がこんな行動に出る時は、少なからず訴えがある時だ。
それに気付いている彼女は、降参とばかりにペンを手放した。

「頭を悩ませる無意味な時間より、あなたとの有意義な時間を選ぶわ。それでいいかしら?」

じゃないと、呼吸まで奪われそうだから。

そう言って微笑んだ彼女への返事は、言葉の変わりに口付けを一つ。

【 吐息の行方 】  南野 秀一 / 悠久に馳せる想い

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09.09.05