024.言葉に出せない想いを文字に託して
今更、面と向かって色々と言葉を交換し合うような関係ではない。
目線一つで彼が何を考えているのか、どうしてほしいのかがわかるのだ。
改めて言葉にされる必要も、またする必要もなかった。
けれど…何故だろうか。
ふと、この心の内を言葉に表してみたいと思った。
だからと言って即座に実行できるほど、子供のような純粋さは持っていない。
それならば、どうしようか。
今が授業中だと言う事も忘れ、彼女はぼんやりと窓の外を見つめた。
運が良かったのか、今回の座席は窓際一番後ろ。
誰もが羨む場所だ。
言葉にするのは、それこそ 今更だ。
ならば、他に何か方法はないだろうか。
そんなことを考えながら、社会科教師のお経のような教科書の朗読を右から左へと聞き流す。
黒板に視線を戻せば、白いチョークで書き連ねられた説明書き。
本来ならばノートに板書しておかなければならないのだが、提出しなければならないわけでもないので面倒なことはしない。
黒板の板書など、試験の時にそれを使って復習したい者だけが写しておけばいいのだ。
真っ白なノートを見下ろせば、その上に転がるシャーペンが目に入った。
そこで、唐突に思いつく。
「……………」
1年生チビーズ達ならば、あぁ!と賑やかな声を上げる所だろうが、彼女はヒル魔と長く深く付き合えるような人間だ。
持ち前の冷静さにより、周囲どころか隣にすらも発見を気付かれることはなかった。
思い立ったが吉日。
彼女はポケットに押し込んでいた物を取り出し、実行に移した。
授業中であろうとなかろうと、ヒル魔には関係ない。
いつものようにパソコンを開き、片耳だけを唯一授業に向けながら作業を進めていた彼は、ふと机の上の携帯が光っている事に気付いた。
サブディスプレイに表示された名前に、彼は他人にはわからない程度に目を見開く。
彼女は真面目に受けているとは言い難いものの、授業中にメールをしてくる事はない。
そんな彼女からのメールに、ヒル魔はキーボードを叩いていた手を止めた。
メールの着信を告げる携帯をパカリと開き、指先でキーを操作していく。
本文を開いた彼の動きが止まった。
同じクラスであるヒル魔の様子は、一番後ろに居る彼女からは丸見えと言っても過言ではない。
携帯を開き、そして静止した彼の様子に、彼女は悪戯が成功した子供のような笑顔を見せる。
―――さぁ、どんな反応を返してくれる?
そんな期待に胸を膨らませた。
【 言葉に出せない想いを文字に託して 】 蛭魔 妖一 / ペチュニア