015.その人は誰

客人だと言う報告を受けたとき、生憎彼女と蔵馬の手は空いていなかった。
じゃあ、俺が行くよ、と名乗り出てくれた息子に感謝し、その役を頼んだのは今から3分ほど前のこと。
戻ってきた彼は不機嫌を隠そうともせず、母の元へと戻ってきた。

「お帰りなさい。ありがとう。誰だった?」
「知らない。けど―――」

不機嫌な声で答える彼の脇を通り抜けてくる影。
それは、真っ直ぐに彼女の方へと向かってきた。

「会いたかったわっ!!」

がしぃ、と勢いよく抱きしめられ、彼女はきょとんと目を瞬かせる。
もちろん、避ける事は出来た。
けれど、知っている人物である事はその妖気からわかっていたので、特に行動を起こさなかったのだ。
しっかりと抱きしめられながらその肩越しに息子を見てみると、彼は驚いた様子で目をまん丸にしている。
あぁ、もしかして、と彼の心中を察した彼女が説明しようと口を開く。
すると、声を発するよりも先に、ぐい、と腕を引っ張られて強い抱擁から解放された。

「…何をしている」
「あーら、蔵馬。いたの?」
「人のアジトに侵入してきておきながら、よくもぬけぬけと…」
「侵入だなんて、人聞きの悪い。ちゃんと玄関からジュニアに通してもらったわよ」

ねー?とにこやかな笑顔を向けられ、呆然とする彼。

「…えっと…母さんの…知り合い?てっきり、父さんがどこかで作った女かと…」
「女…?冗談じゃない」

息子の言葉に、吐き捨てるようにそう言った蔵馬。
その表情は、心底嫌そうだ。

「あら、私だって願い下げよ?私が愛してるのは彼女だけだもの」
「…相変わらずね」

蔵馬の腕から彼女を奪い取ろうとするも、しっかりと固定されていて離れない。
両者の間に冷たい空気が流れ、そっと溜め息を吐き出す彼女。

「見るな触れるな近付くな」
「男の嫉妬は醜いわよ、妖狐蔵馬?」
「お前も男だろうが」
「私は男女の壁を越えた妖怪なのよ!」
「どっちも変わらん。出て行け、消えろ」

二人の間で交わされる言葉一つ一つに棘がある。
間に挟まれているのが嫌になったのか、彼女はするりと蔵馬の腕を抜け出した。
静かに白熱してきているらしい二人は、その事に気付かない。
二人の傍を離れた彼女は、そのまま硬直している息子のところに移動する。

「母さん…」
「どうしたの?」
「あれ、誰?」
「前に助けてから、どうも気に入られてしまったみたいで…時々来るのよ。ここ数十年は音沙汰がなかったから、死んだのかと思っていたけど」
「………あの人、女じゃないの…?」
「あぁ…あんな姿だけど、男よ」

世の中、見た目なんて信用できないのだと悟った日だった。

【 その人は誰 】  妖狐一家 / 悠久に馳せる想い

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09.08.22