014.君が困らないといいけれど
「ティルさんって嫉妬とかしそうにないですね!いいなぁ、頼れる大人って感じがします!」
そう言って力説したリオウに、ティルはクスリと口角を持ち上げた。
青年のまま肉体の成長が止まり、数年。
確かに彼の言う“大人”の領域には足を踏み入れているのだろう。
しかし…残念だが、彼が前提としている“大人”には、なれそうにないと思う。
わざわざそれをリオウに説明する必要はないだろうと、ティルは笑顔でもって説明の言葉を奥深くに沈めた。
代わりに、ありがとう、と微笑めば、自分を尊敬して止まない少年は「とんでもない」と興奮した。
さて、この話をしたら、彼女はどんな反応を見せてくれるだろうか?
「ティルが嫉妬をしない…?思い切ったことを言うわね、あの子」
手に持っていた果物をポロリと取り落とすコウ。
いつも隙がないほどに完璧な彼女には珍しい行動だ。
それだけ驚いたと言う証拠でもある。
「あの子…ティルの事を少し誤解しているわ。尊敬しすぎて盲目になっているのかしら」
「面白いし、別にいいと思うよ?」
にこりと笑った彼に、そう言う問題じゃないと溜め息を吐き出す。
昔、自分もリオウと同じように思っていたことがある。
解放軍を率いたティルは、良くも悪くも皆のリーダーだった。
二人とも、あの戦いの間にお互いの心が向かい合っている事を自覚していたけれど、直接言葉にする事はなかった―――それは、二人の中で暗黙の了解となっていたから。
そうして、戦いが終わった後、二人の仲が進んでも…彼の態度は暫くの間変わらなかったのだ。
「ティルって、反応が大人ね」
「そう思うかい?」
「ええ。それに…嫉妬なんて、しないんでしょう?」
「…してるよ、数え切れないほどに。君は皆に優しいからね」
「…本当に?だって、わかりにくいわ」
「なら、わかるように妬いてみようか?―――君が困らないといいけど」
「え?」
「うん。じゃあ、明日からは我慢するのをやめておくから、頑張ってね」
優しいだけではない、何かを含んだような綺麗な笑顔に、嫌な予感を覚えた。
もちろん、その翌日から彼は宣言通りの行動に出たのである。
その時初めて、コウは理解した。
ティルが大人の反応をしているように見えていたのは、全て彼の我慢のなせる業だったのだと。
そして今更に、わかりにくいと言って彼の箍を外してしまった事を後悔した。
「あの頃のあなたが恋しいわ」
「酷いな…。今も昔も、変わらず大きな愛で君を包んでいるつもりだけど?」
「…包まれているわね、しっかりと。ところでさっき、宿屋の彼に話しかけたら逃げられたんだけど、覚えはあるかしら?」
「さぁ、どうしたんだろうね」
「…白々しい…」
「でも、こんな俺も嫌いじゃないだろ?」
「…慣れたのよ」
「クスクス…その頬を隠さないと、今の台詞は信じられないな」
【 君が困らないといいけれど 】 1主 / 水面にたゆたう波紋