013.あと、少しだけ

何も言わなくても伝わる関係はとても素敵だと思うけれど。
言葉で伝えて意思を絡めあう事も、時には必要なんだと思う。
静かな部屋の中でもう一人の存在を意識しながらも、特に何か言葉を交わすでもなく、互いの時間を過ごす。
それなのに、あえて一つの部屋の中に集まってしまうのは、この空間を心地よいと思うからなのだろう。

ふと、読んでいた本から顔を上げる。
気が付くと、こうして彼の部屋で読書をする時間が増えていた。
何か用があるでもなく呼ばれることにも、慣れてきた今日この頃。
この時間が心地よいと思うのは自分だけではないと―――。
もし、そうだとしたら…ほんの少し、勇気を出してもいいだろうか。

「XANXUS様」

そう声をかけた彼女に、彼からの返事はない。
ただ一瞬だけ視線が動き、鋭い眼が彼女を捉えただけ。

「そっちに行ってもいいですか?」
「―――好きにしろ」

彼は持っている分厚いファイルを1ミリたりとも動かすことなく、淡々と答えた。
冷たくも素っ気無い言葉の中に、任務中とは違う色を見つけ、些細な事なのに嬉しくなってしまう。
迷いなく腰を上げた彼女はテーブルを回り、やがて彼の隣に腰を下ろした。
かなり金をかけてあるのか、座り心地はこの上なく素晴らしい。
拳一つ分の距離を開けて彼の隣に座った彼女は、その横顔を眺める。
視線に気付いたからといって目を向けてくれるような人ではないと言う事はわかっている。
あまり不躾に眺めていれば、そのうち文句を言われるかもしれないけれど―――その横顔に惹き付けられた目は、そこからまったく動こうとしない。
はぁ、と言う短い溜め息が聞こえたと思うと、空いていた左手が彼女の顎を掴んだ。
そして、ぐい、と横を向いていた彼女の顔を正面に向ける。
どうやら、見るな、と言いたいらしい。
名残惜しむ事もなく離れていく指先に少しの寂しさを感じ、ふと浮かんだ欲求に軽く口を引き締める。
果たして、この欲求は叶えて良いものかどうか。
悩み、悩み、悩んだ末、彼女は行動を起こす事にした。
ひょいと軽く腰を浮かせ、あと少しで触れると言う微妙な距離をゼロにする。
そしてそのまま、文句を言われる前にその肩に頭を預けて凭れてしまった。
やや驚いた様子で自分を見下ろす視線を感じるけれど、あえて無視する。

「…寝るなら寝室に行け」
「寝ません」
「……………」

それ以上何を言っても無駄と思ったのだろうか。
彼の視線が動くのを感じ、数秒後には紙をめくる音が聞こえた。
多少鬱陶しいとは感じているだろうけれど、自由にさせてくれるらしい。
自分以外は見る事はないであろう彼の優しさに触れて、思わず笑みが零れた。
きっと、笑っていると知られれば、無理やり引き剥がされるだろう。
今はただ、この笑いが彼に伝わってしまわないよう、隠す事に努めるとしよう。

【 あと、少しだけ 】  XANXUS / Bloody rose

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09.08.17