012.料理は愛情
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」
皆にそう慰められているけれど、やはり本人としては遣る瀬無さが込み上げる。
出来なくても仕方ない―――そう、彼女はそう言う環境に育っているのだから、当たり前なのだ。
しかし、彼女自身はそれに納得が出来なかった。
「でも…流石に、ゆで卵の茹で時間がわからないのは問題だわ…」
そう呟いた彼女に、返す言葉が見つからなかった。
彼女は元々王族だ。
料理などする必要がなかったのだから、その関連の知識がなくても無理はないだろう。
誰にも責められる事ではないのだが…確かに、知識としては必要なのかもしれない。
これからも解放軍の中で生活するのならば、尚のこと。
意気込んでいる彼女の後ろで、城主である彼が苦笑いを浮かべた。
「坊ちゃん、どうしましょう?」
「…うん。まぁ…納得がいくところまで、教えてあげてくれる?たぶん、器用だからすぐに覚えられると思うんだ」
「はぁ…私は構いませんが。彼女が出来なくても、私は作りますから問題はありませんけど…」
「たぶん、そう言う問題じゃないんだと思うよ」
これは恐らく、彼女自身の自尊心の問題だろう。
真剣な表情で生卵を見つめる彼女を見ていると、グレミオに頼まずにはいられなかった。
「―――というわけで、彼女は料理が出来なかったんだよ」
「へぇー。何でも出来るイメージがありますから、意外ですね」
「まぁ、仕方ないと思うよ。僕だって、いつもグレミオが居てくれたから得意じゃなかったし」
覚えたのは、あの戦争が終わってからだ。
いつでも傍に居てくれて、温かい食事を用意してくれる彼。
そんな日常が当たり前ではないのだと痛感したから。
覚えたいと言った時には色々と紆余曲折があったのだが、結果としてはグレミオに教わった彼女から教わる形になった。
どうあっても、グレミオが彼に料理を持たせる事を良しとしなかったからである。
「ところで、初めての料理は美味しかったんですか?」
「ん?彼女の?」
「はい!」
「そりゃ…美味しかったよ」
当たり前じゃないか、と笑う彼。
何だ、やっぱり何でも出来るのか。
デュナン城の主は密かに溜め息を零した。
それから、彼が付き人に呼ばれていき、入れ替わるようにして話題の彼女が姿を見せた。
ついでなので、彼女にもその時の事を聞いてみる。
「初めての料理…ね。失敗だったわよ。いくら手先が器用でも、料理に重要なのは知識と経験だってことを痛感したわ」
「え、でも…美味しかったって言ってましたよ?あの表情は嘘だとは思えないんですけど…」
そう言った彼に、彼女はもう、と僅かに頬を染めた。
「彼、それ以外には何も言ってなかった?」
「あ、はい。美味しかったよ、とだけ」
「そう…なら、ヒミツよ」
追求から逃れるようにして、城主に背中を向ける。
後ろから呼び止める声が聞こえていたけれど、聞こえない振りをした。
「言えるわけないわよ」
―――料理に一番大事なのは、誰のためにって言う想いだと思うんだ。だから、君が作ってくれた料理は美味しいと思うよ。
【 料理は愛情 】 1主 / 水面にたゆたう波紋