003.淋しいときには

他人に関心の薄い雲雀ですら、ちゃんと寝ているのだろうか、と思うくらいに、よく眠っている彼女。
革張りのソファーの一つに横たわって瞼を閉じる彼女は、規則的な寝息を立てている。
随分と深い眠りの中にあるのか、呼吸以外ではピクリとも動かない。

―――特にしてほしい用事もないし、まぁいいか。

その程度に考えた雲雀が彼女から視線を外そうとした、その時。
穏やかに眠っていたはずの彼女が、勢いよく飛び起きた。
よくある、悪夢に飛び起きた状態の彼女は、ここがどこなのか理解できていない様子だ。
ぼんやりと瞬きをして、それからゆっくりと首を動かす。
状況を把握するように部屋の中を一巡した視線が、やがて雲雀の姿を捉えた。

「…起きたの?」

何を言えばいいのかわからず、結局ごく普通の言葉が零れ落ちた。
しかし、彼女は彼の言葉に対し、返事をしない。
無言で彼を見つめていたかと思えば、いきなりソファーから立ち上がる。
テーブルを回るようにして向かいのソファーに座っていた雲雀の隣にポスン、と腰掛けた。
多少、邪魔にならないことに配慮したのか、利き腕とは逆の方に座る彼女。
座ってから少しだけ間をおいて、彼の方に頭を置く。
彼女らしからぬ行動に、雲雀は読んでいたファイルを持ったまま彼女を見下ろした。
その表情には驚きが浮かんでいる。

何かを言おうとして、けれど言葉が見つからず。
雲雀は、ただ無言で彼女に肩を貸した。
弱い力で学ランの裾を握る彼女の手が震えていたことに気付いたからなのかもしれない。
あえていつも通りを装う事に決めた雲雀は、再びファイルへと視線を落とした。





「え!?」

ポスンと雲雀の肩に凭れた彼女は、数分後には再び寝息を立てていた。
動かすでもなく昼寝に付き合い、やがて自然に覚醒した彼女は、自分の状況に驚く。

「言っておくけど、僕が連れてきたわけじゃないよ」
「そりゃ、そうよね…何でこんな事に…」

自分の行動がわからない、とぶつぶつ呟きながら距離を取る彼女。
向かいのソファーに置き去りにした自分の学ランに袖を通しながら、相変わらず疑問に頭を悩ませている。
どうやら、一度起きた時の事は記憶にないらしい。

「変な事は言ってない…わよね?」
「…さぁね」

焦っているらしい彼女が面白いから、もう少しだけ口を噤んでおくことにしよう。

【 淋しいときには 】  雲雀 恭弥 / 黒揚羽

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09.08.01