001.恋に落ちたのは一瞬
「まぁ、すてき!お母様のお話を聞くのも、とても心が逸るけれど…お方様のお話はもっとすてき!」
期待に胸を膨らませた子供の目を裏切らないようにと、手探りで誇大にならないよう話を盛り上げる。
早くに母親を亡くした城主の一人娘は、よくよく父懐いていた。
初めこそ良い顔をしなかった一介の将である父親は、彼女と政宗の申し出により月に1度だけ娘を連れてやってくる。
「私にとっても楽しい時間ですから」
そう言ったのは彼女で、
「あいつ自身が拒まねぇなら、好きにしろ。子供の扱いには慣れてるに越した事はねぇからな」
そう言ったのは、政宗だった。
「私も、いつかお方様みたいにすてきな殿方を見つけられるかしら」
「きっと大丈夫よ。お父上が、良い方を探してくれるわ」
「そうですよね。お父様は、いつも『お前には良い相手を探してやる』と仰るんです。
お方様。今度は、お方様がお館様に恋をした時の話が聞きたいです!」
子供の好奇心は尽きることがない。
次から次へと話を望む少女に、彼女は「そうね…」と思案する。
「お二人が出会ったのは運命だって、いつもお父様がそう言っています」
「運命…そうかもしれないけれど、はっきりと言われると照れてしまうわ」
「ねぇ、どんな事があったんですか?お方様が野盗に攫われて、お館様が助けてくれたとか?」
「物語の読みすぎよ。そんな特別な何かがあったわけじゃないの。私が政宗様に恋をしたのは…わからないわ」
「わからない?」
「ええ。初めてお会いした時には、既に恋に落ちていたんだと思うの。本当に一瞬のことだったから、よく覚えていないわ」
期待を裏切ってしまって申し訳ないけれど。
そう言って困ったように微笑む彼女を前に、少女はその大きな目を最大限に輝かせた。
どうやら、期待を裏切ったと思っているのは自分だけらしい。
「聞いたことがあります!恋に落ちるのは一瞬だって!お方様はまさしくそれを体験されたのですね!!」
「いや、だから…そうはっきり言われると照れるんだけど…聞いてないわね」
脳内妄想を暴走させている少女に、かつての親友が重なった。
今でこそ一人の男性に惚れ込んで落ち着いているが、昔の彼女は中々に妄想の激しい性格だったのだ。
性格が悪いと言うわけではなかったから、何度か彼氏も居たようだけれど。
「私、いつかきっと…お二人のようなすてきな夫婦になります!」
「…ええ、頑張ってね」
この時代の結婚がいくら早かろうと、まだ5年は先だ。
今頃から意気込んでいる少女に、辛うじて励ましの言葉を告げる。
この様子だと、帰宅後すぐにでも父親に相手を求めそうな勢いだ。
「…ごめん」
大事な一人娘を唆したつもりはないけれど、結果としてそうなっている気がする。
偵察に向かっているであろう政宗の部下を思い、そっと謝罪した。
【 恋に落ちたのは一瞬 】 伊達 政宗 / 廻れ、