089.満たされない
人間とは、どこまで貪欲な生き物なのだろうか。
想い想われ、心を重ねて、身体を重ねて。
そしてまた、より深い繋がりを求めていく。
やがて、高望みした心が行き着く先は、表に出すことを憚るような、醜いものだ。
そうなるとわかっていて、人は何故愛するのだろうか。
セフィロスにとって、それは長年の疑問だった。
あの日、彼女と出会っていなければ―――彼は今でも、その疑問を抱えていたのかもしれない。
「セフィロス」
彼女の声が紡ぐ音が心地よい。
ソファーで瞼を伏せていたセフィロスは、呼ばれる声に反応しなかった。
もっと、そんな感情が、彼にそうさせたのだ。
「もう、聞こえているんでしょう?セフィロスったら」
起きているか、寝ているか。
その程度の区別は簡単だとばかりに、彼女はセフィロスの肩を揺らす。
ふわりとその柔らかい香りが鼻先をかすめ、つられる様に目を開いていく彼。
その視界の中で、彼女が笑った。
「眠るなら、寝室で。…風邪を引くとは思えないけれど…一応、ね」
ほら、と急かす彼女に従い、ソファーから立ち上がる。
昼下がりの心地よさに身を任せ、ベッドで眠るのも一興だと考えたからだ。
自分を見送ろうとした彼女の腕を掴み、歩き出す。
「ちょっと。私は寝ないわよ」
彼女の反論には無言を返しておく。
こうすれば彼女が諦めると言うことを知っているのだ。
案の定、彼女は溜め息を一つ零してからは、抵抗と言う素振りも見せずに引っ張られるままに歩く。
リビングを出て、フロア一つ分の居住区を分断するほどの長い廊下を歩き、最奥が寝室だ。
歩幅を大きく寝室にたどり着くと、彼女と共にベッドに雪崩れ込む。
性急に唇を重ねていくと、ここに来たのは眠るためだと想っていた彼女が驚いた表情を見せた。
抵抗と呼ぶには些か頼りない手の平に行動を制され、じろりと睨まれる。
「―――満たしてくれないか?」
先手必勝とばかりに、言葉を紡ぐ。
「真昼間からあなたの性欲を満たしたくはないんだけど」
「いや…満たして欲しいのは、心…だな」
自分自身に確認するように呟いた彼に、彼女はきょとんと目を見開いた。
そして、彼の肩に添えていた手をその額へと当てる。
「熱でもあるの?」
「いたって正常だ」
「あなたが心だなんて…明日は雨かしら」
クスリと笑った彼女は、既に抵抗の姿勢を消していた。
そして、額に押し当てた手を、彼の頬へと滑らせる。
「珍しいことを言ってくれたから………仕方ないわね」
付き合うわ、と告げる彼女の唇に、自身のそれを重ねてそれ以上の言葉を封じる。
彼女の傍にいると、貪欲な心が本当の意味で満足する事はない。
それは、セフィロスにとって新鮮で、そして何よりも大切なものだった。
【 満たされない 心 】 セフィロス / Asure memory