084.灼熱の
「へぇ、次…砂漠の任務なんだ」
机の上にぺらりと置かれていた任務に関する書類。
手伝うことも多い所為か、私の机にはよくエクソシストの任務書が紛れ込む。
名前を見ればやはり自分ではない人の名前が記載されており、それが私の任務ではないことを知った。
「どうかしたのか?」
「また紛れ込んでるわ。そのうち迷子になるわよ、これ」
指先ではさんだ書類をひらりと揺らす。
振り向いたりーバーが驚いたように目を見開き、そして、またか…と呟いた。
誰が仕事を振り分けているのかは知らないけれど、最近少し多すぎると思う。
腰を上げて机の近くまでやってきたリーバーは、誰の仕事だ、と呟きながら私の手の書類を覗き込んだ。
「…これ、確か…」
「覚えがあるの?じゃあ、あなたが原因かしら」
「いや。だが、この任務関連の仕事があったな」
答えた彼が、自分の机に戻っていく。
乱雑に詰まれた書類の山をがさがさと掻き分ける彼。
程なくして、彼は一枚の書類を手に私の元へと戻ってきた。
「あったぞ。防御効果を落とさず、通気性の良い団服の開発だ」
「…条件が厳しいわね」
防御力を高めるには素材を厚くすることが一番手っ取り早い。
通気性を良く、というのはその真逆を行く。
なかなか難しい開発を要求されたものだな、と思った。
「まぁ、厳しいのは厳しいんだが…場所が場所だからな。仕方ない」
「そんなに暑いのかしら」
「灼熱地獄だぞ、砂漠は」
「行った事あるの?」
へぇ、意外。
そんな声を上げる私に、リーバーは苦笑を浮かべて首を振った。
「仕事上、データだけは揃ってるもんでな。おまけに、夜は寒いときたもんだ。温度差が酷いんだよ」
「じゃあ、ただ薄くすればいいってものでもないわね」
「そう言う事だ。確か、構成自体は途中まで終わってたな…仕上げちまうか」
差し迫っている仕事は山ほどあるけれど、これも期限が迫っている。
途中まで出来ているのならば、先に片付けてしまった方がいいと判断した彼は、ガシガシと頭を掻きながら机に戻っていった。
「ねぇ、リーバー」
「んー?」
「それ、私の分も作れる?」
意外な問いかけだったのだろうか。
ペンを走らせていた手が止まり、連日の睡眠不足で隈のできた目が私を見る。
「必要なのか?」
「必要はないんだけど…砂漠、行ってみたいと思って」
「何があるわけでもないぞ、砂以外」
「まぁね」
「…出来ん事はないが…」
そう言って言葉を渋った彼に、予算的に難しいのかもしれないと思った。
やっぱりやめておく、と言おうとした所で、外れていた彼の視線が私へと戻ってくる。
「遊びに行くなら平和になってからだな」
「…気の遠い話ね」
「確かに。…ま、その時には俺の仕事も忙しくなくなるからな。連れてってやるよ」
「え?」
「砂漠なんて一人で行くもんじゃないぞ。暇だろ」
そういう問題じゃない、とか、どういう意味、とか。
聞きたいこと、言いたい事は色々とあるはずなのに、どれも言葉にはならなかった。
はにかむように笑った彼の視線が私のそれから逃げていく。
もしかして、今のは―――そう、結論付けが出来ようとした頃には、彼は仕事に戻ってしまっていた。
「…期待せずに待ってるわ」
呟いた声は、彼に届いただろうか。
【 灼熱の 大地 】 リーバー・ウェンハム / 鎮魂歌