083.憎らしい

年に一度のあの週がやってきてしまった。
苛立ちを隠そうともせずに部屋に籠る彼女。
訪ねれば怒らせるとわかっていて、彼女の部屋へと踏み込む者はいない。
ゼロだと言えないのは、そんな無謀者が一人だけ存在しているからだ。

「…来るなと…言ってるのに」

突き刺さりそうな視線がその人を射抜く。
そんな視線など気にした様子もなく、我が物顔で室内を歩き、定位置に腰を下ろす。
そのまま煙管に火をともす彼の横顔は、何を考えているのか表情が読みにくいものだった。
弱った自分を見られたくないというこちらの意見はすべて無視。
暫くは我慢していた彼女だが、限界は早かった。

「晋助!部屋から出―――」

いつの間に近づいてきていたのか、彼がすぐそこにいた。
思わず言葉を止めたのをいい事に、彼はニッと口角を持ち上げる。
そして、無防備だった彼女の額をピンッと指先で弾いた。

「~~~~~~~っ!!!!」

全身に広がった痛みに悶える彼女。
その様子を見下ろす彼の眼は、いつもほどの鋭さを帯びていない。
寧ろ、純粋に楽しんでいるようにも見えた。
残念ながら、痛みに喘ぐ彼女がそれに気付くことはないけれど。

「し、んすけ…っ!!」

何をする、と言いたげな眼で彼を睨みつける。
その瞳は赤々としており、彼女の感情が手に取るようにわかるものだった。

「いい加減慣れねぇのか?」
「無茶言うなっ!!」

叫ぶことすら痛みにつながると言うのに、この男は…!
布団に逆戻りになりながら、眉間の皺を盛大に追加する。
そんな彼女の反応すら、彼を喜ばせるものでしかないようだ。
ニヤリと、浮かべた笑みを崩さない彼。
可愛さ余って―――という言葉があるけれど、その笑みに可愛さなどあるものか。
積もるのは憎さばかりである。
いくら睨みつけようとも、ぬかに釘、柳に風。
実力行使に出ることの出来ない彼女には、彼の行動はおろか、その笑みを止めることすらできはしないのだ。

少なくとも、彼に対して怒りを露にしている間は身体の痛みによる苛立ちを忘れているのだと―――彼女自身がその事実に気付くには、もう少し時間が必要だ。

【 憎らしい 笑み 】  高杉 晋助 / 朱の舞姫

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09.06.06