081.可愛い
姉貴、と自分を呼ぶキルアが可愛くてしかたがなかった。
それは、強く、けれども冷たいゾルディック家で過ごしていて、一番に麻痺してくる感覚。
何かを愛しいと思う感情。
失いたくないとは思うけれど、徐々に徐々に希薄になってきてしまうことも否めない。
その感情を守ってくれていたのは、ほかならぬキルアだったのだ。
「姉貴~。今日のターゲットは?」
「資料を先に渡していたでしょう?」
夕食のメニューでも聞くような気軽さの問いかけに、そう切り返す。
それに対して、頭の後ろで腕を組み、へら、と表情を緩めるキルアに、小さくため息を吐く。
読んでいるとは思っていなかったけれど、まったく目を通していないとは。
無言で彼の傍に歩み寄り、その頬をぐいっと引っ張る。
痛い痛い、という声は、頬の中で不自然に砕けた。
「最低限1ページ目だけは目を通しなさいって言ったわよね?」
「いってー。何すんだよ、まったく…」
「言ったわよね?」
「…ハイ。ゴメンナサイ」
空気に僅かな冷たさを感じ取ったのか、キルアが早々に謝罪を口にする。
それが本心であるかどうかは別だが。
「あまり酷いとイルミに報告するわよ」
「うっわ!それだけは勘弁!姉貴に迷惑かけると、めちゃくちゃ怒るんだぜ、兄貴」
怖いのなんのって。と身を震わせるキルア。
わかっているなら真面目にこなせばいいものを…と思いつつ、肩を竦める。
それを口にしないのは、この時間がキルアにとっての息抜きであることを知っているからだ。
ゾルディック家の他の人間と一緒の時のキルアは、悲しいほどに緊張している。
普段の明るい表情を消し去り、無表情に徹するさまはいっそ痛々しくも感じた。
キルアが年相応に笑うのは自分の傍だけだと知っているからこそ、あまり強くは言えない。
そして、何より私自身が―――
「もう、仕方ないわね」
「へへ!姉貴って、俺に甘いよな!」
「…厳しくしてあげましょうか?」
「嘘嘘!!そう言う所が大好きだって話じゃん!!」
屈託なく笑う彼に救われているから。
「…私もキルアが大好きよ」
この子がいるから、優しさを忘れないでおこうと思える。
「…な、何だよ…急に、改まって」
そう言って目をそらすキルアの頬は赤い。
照れているんだな、と思いながら、その柔らかい銀髪を撫でた。
ゾルディック家の方針を否定するつもりはない。
彼らが無情を教えると言うのならば、私だけは優しくあろうと思う。
「一度しか言わないから、よく聞いておくのよ。今日のターゲットは…」
守りたいと思っているはずなのに、そう見える行動を取ることが出来ないイルミのためにも。
【 可愛い 弟 】 キルア=ゾルディック / Free