078.突き立てる

まるで自らの腕の延長であるかのように、自由に刀を扱う。
鋭く、時に優雅に。
女性ならではのしなやかな動きは、相手の視線を奪う。
その一瞬の油断こそ、生死を分ける瞬間だった。

「相変わらずえげつねぇな」

キンッと刀を鞘に納めた彼女の背後から声が聞こえた。
暗闇から姿を現したのは、全身の大部分を包帯に包まれた男。
その男は、日の光など似合いそうにない、物騒な闇の眼光の持ち主だった。

「油断する方が悪いのよ」

呆れた風にそう呟く彼女の眼下には、今しがた斬り捨てたばかりの男の姿がある。
傷は致命傷で、指一本を動かすのも辛そうだ。
か細い呼吸が聞こえる中、二人はその微塵も空気を揺るがすことなく、自然体を保っている。

「追っ手が近い。引き上げるぞ」
「はいはい。志々雄さん自ら迎えに来てくれるなんて、珍しいわね。明日は雨かしら」
「方治曰く、明日は晴れだ。作戦には最適の、な」
「あら、そう」

残念ね、と艶やかに微笑む。
少女と呼べる時代から知る彼女だが、随分と大人に成長したものだ。
由美とはまた違った艶を持っている。
尤も、彼女と言う花には触れることを許さない毒が含まれているけれど。

「これで追っ手を撒けば、私の仕事は終わりね。明日はゆっくり休めるわ」
「そんなに作戦に参加するのが面倒か?お前は喜ぶと思ったんだがな」
「嫌いな作戦ではないけれどね。もう、ひと月も休みなしに働かされている方の身になってほしいわね」
「曰く、俺はお前に甘いらしいからな。他の部下の手前、態度で示してやったんだろうが」
「それ、言ったのは方治でしょ。あの男は無意味に考えすぎるのよ。弟子の腕にあと1ミリで使い物にならなくなるような深い傷を負わせる男を甘いとは言わないわ」

そう言って、彼女はむき出しの腕に巻かれた布を見下ろす。
常に外さない布の下には、消えることのない傷痕が醜く残っているのだ。
志々雄の刀を突き立てられたそこは、その刃独特の摩擦によりいくらかの熱を受けており、組織が回復する見込みはない。
別に彼女自身は気にしていないのだが、女なのだから、と由美に説得され、飾り布を長く切ったものを巻いて過ごすようになった。

「―――お前はいつまでも甘いな」

ふと、そう呟いた志々雄が刀を抜く。
思わぬ行動に目を見開く彼女の視界の端で何かが動いた。
それが何だったのかを理解した時には、既に志々雄の刃が倒れていた男の肩に深々と突き立てられていた。
間もなく死ぬだろうと思っていた男は、最期の力を振り絞って彼女に一矢報いようとしていたらしい。
腕の傍で不自然に転がった刀が、それを物語っていた。

「…思ったより根性があったのね。意外だったわ」
「油断する方が悪い―――そう言ったお前が油断してりゃ、世話ねぇな」
「あら、油断とは言わないわよ。誰かさん曰く、これは余裕らしいから」

にこりと微笑んだ彼女に、ふん、と鼻で笑って返す。
そして、刀を乱暴に抜いて着物で血を拭うと、それを鞘に納めて歩き出した。

「明日から休んでいい?」
「これ以上俺に刀を抜かせなかったら考えてやるよ」
「…聞こえる限りでは、20人くらい追っ手がありそうなんだけど」
「それをどうにかするのがお前の仕事だ」
「…はいはい。我がままな師匠だと弟子が苦労するわ…」
「大将は後ろでどっしり構えるもんだろうが」
「それはどっしりと構えてから言って欲しいわね」

【 突き立てる 】  志々雄 真実 / るろうに剣心

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09.05.27