074.微かな

久しぶりの団体行動。
スナイパーを兼ねる彼女は、単独で狙撃任務に付くことも多い。
ガンナーである彼女は近距離戦にも強いのだが、要するに良い腕の狙撃手が少なく、必然的にそちらに回される事が多くなっているのだ。
同じ任務であろうと、狙撃は遥か遠くから行われることも少なくはない。
行動を共にして任務に取り組むのは、かれこれ三ヶ月ぶりの事なのだ。

「隊長」
「何か見えたかぁ?」
「はい。この位置からでも撃てますけれど、駄目なんですよね?」

スコープを覗きつつ、今回のターゲットに照準を合わせる。
このままトリガーを引けば任務は完了だ。

「聞き出せって言われてるからなぁ」

面倒くせぇ、と呟くスクアーロ。
そう、彼女がトリガーを引いて任務終了と出来ない理由は、そこにある。
ターゲット本人の口から聞きださなければならない事があるのだ。
つまり、肉眼では米粒サイズにしか確認できないような遠くから片を付けてしまうことは出来ないと言うことだ。
ふぅ、と息を吐き出し、ライフルを下ろす。

「あの人、出てくるつもりあるんですかね」

厳重すぎる警備の所為で、正面からも裏からも侵入は面倒な事になる。
相手が出てくるのを待つしかないわけだが…それはそれで、暇すぎる。

「調べによれば、な」
「一日一回、賭博の為に、か…そんなに好きなら、この無駄に広い屋敷の中に賭博場を設ければいいと思いませんか?」
「他人を入れると、余計に警備がめんどうになるんじゃねぇのか」
「…一理ありますね」

二人して、屋敷へと通じる唯一の橋の所で、時間を持て余す。
ふと、ライフルを解体していた彼女が、顔を上げて空を仰いだ。

「何だぁ?」
「霧雨ですね」

そう言って手を伸ばす彼女。
指先を切り落としたレザーグローブをつけた手は、雨の存在を感じられない。
いや、雨自体が、感じられないほどに細かいのだ。
微かに唇が湿り気を帯びていて、漸く気付く程度の雨。
しかし、こういう霧雨は、雨の降らない場所に入ると、予想以上に濡れていることに気付くのだ。

「…面倒ですね」
「…あぁ、まったくだぁ…」
「本降りになる前に片をつけませんか?」
「………骨が折れるぞ?」
「斬り込み隊長を後ろからサポートするのが今回の任務ですから」

それに、と呟いた彼女は、ウエストポーチからあるものを取り出した。

「ボスからこんなものを頂いてきました」

にこりと笑う彼女の表情には似合わず、その手の平に転がる硬くて丸い無機質な物体。
ピンを抜いて数秒後に爆発する―――手榴弾だ。

「…俺を巻き込むなよ」
「了解、隊長。…では」

指先一つでピンを外した彼女は、そのまま勢いよく腕を引いた。
そして、その勢いを殺さないよう肩でそれを放り投げる。
綺麗に弧を描いたそれは、吸い込まれるように屋敷の入り口へと落ちて行く。
ドォン、と派手な爆発が、その場を警備していた数十人を巻き込んだ。

「…派手だな」
「…ですね」
「………まぁ、いい。行くぞ」

いつの間に取り出していたのか、仕込み剣を腕から生やしたまま、スクアーロが走り出す。
霧雨を纏った銀髪は、ハッとするほどに美しかった。
…こんな事を言うと、あの切っ先が自分に向かってくるのは言うまでもないことだが。

「行くとしましょうか」

湿気を帯びた唇をぺろりと舐め、愛銃を両手に彼の背中を追った。

【 微かな 】  スクアーロ / Bloody rose

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09.05.22