073.封じた

彼女は、滅多なことがない限り無茶はしない。
それは、今まで病弱だった所為で生活の大部分を制限してきたからだろう。
だが―――そんな彼女が、生死を彷徨った。
身体を張って仲間を庇い、怪我を負った状態で魔法を炸裂させたのだから、無理はない。
ベッドに横たわる彼女を見て、ギリッと皮手袋を握り締める。





「無茶をしないで」
「…それは、あなたにも言えることでしょう?今回は私が悪かったのかもしれないけれど…」

逆の立場だったら、あなたはどうしていた?
その問いかけに、彼は無言を返した。
彼女と同じ行動を起さないとは言えなかったのだ。

「リーダーであるあなたに無茶をさせないためには、私が動くしか方法がないから」
「それでは駄目なんだよ」
「無理を言わないで」
「―――わかったよ。じゃあ、こうしよう」

彼はそう言って言葉を区切る。
そして、ベッドの上の彼女を見下ろし、口を開いた。

「リーダーとして、命令するよ。無茶は許さない」
「…!」
「君は、僕はリーダーだから無茶をするなって言うよね。でも、それは君にも言えることだ」
「私は…リーダーじゃないわ」
「あぁ、そうだよ。リーダーじゃないけど、君は解放軍に…何より、僕に必要な人だ。失うわけには行かない」
「…」
「この戦争が終わったら、見せたいもの、聞かせたいもの…伝えたいこと。沢山あるんだ」

いつの日か、と夢見る場所に、彼女がいないのでは意味がない。
その日が来るまで、生き続けてくれなければならないのだ。
誰かを守ることが悪いとは言わないけれど、自分の身体を省みて欲しいと思う。
そんな切実な思いを告げられた彼女は、静かに顔を俯かせた。

「私、も…あなたに、伝えたいことがあるの」
「…知ってるよ」
「だから…あなたも、約束して。無茶をしないって…死なないって」

お願い、と見上げる彼女の目が緩く濡れているのは、怪我による発熱の所為だ。
縋るような目に見つめられた彼は、迷いなく頷いた。

「うん。約束する。だから…君も」
「…わかったわ。極力、努力する」
「………そうだね。それで…納得するよ。僕も、絶対無茶しないなんて言えないから」

そう言って苦笑を浮かべた彼が彼女の手を取った。
白い手には包帯が巻かれている。
最大出力の魔力を放った手の平が、力の大きさに負けてしまったのだ。
痕は残らないと聞いたが、しっかりと巻かれた包帯が痛々しい。

「…気が気じゃないよ、本当に」
「…そんなに心配させてしまった…?」
「うん。凄く、心配したよ。体中の血がスッと下がった気がした」

生きた心地がしなかったよ、と呟く。
そんなにも心配させてしまったのか、と申し訳なさそうに眉を下げる彼女。
彼は、苦笑いを浮かべながらその髪をなでた。

「約束、守ろうね」
「…ええ」

いつか、そう願う日を最高の形で迎える為に。

【 封じた 反論 】  1主 / 水面にたゆたう波紋

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09.05.20