070.終末の
例えば漫画やテレビの世界だと、勧善懲悪が世の常だったりする。
もちろん、最近ではそればかりでは受けないからと言ってあえて悪側に注目したりするものもあったりするけれど。
それでも、悪側とされる方の勝利で終わるものは、斬新ではあるけれど大衆受けはしない。
そう言う理由から、やはり正義側の勝利で終わるものが圧倒的多数を占めていた。
面白いからと鬼兵隊の中で流行っている小説をまた子から渡され、時間つぶしに目を通してみる。
読み始めて2時間。
先の展開が読めてしまった私は、静かに本を閉じた。
生憎だが、面白いとは感じない。
確かにユニークなキャラクターが溢れているけれど、所詮はそれだけ。
内容自体は軽く、底が知れる物語だ。
「善悪の定義なんて、所詮は他人が決めたものでしかないのに…ね」
どれほど悪の事情を細かに説明していて、読者の同情を誘う展開になっていたとしても。
最終的には悪は負け。
死ぬか、主人公との関係改善でハッピーエンド。
「馬鹿馬鹿しい」
そう呟いて、小説をゴミ箱に放り込もうとする。
読み飽きた上にもう一冊持っているから、と言う事でまた子から半ば無理やりに手渡された本だ。
自分のものなのだから棄てても構わないのだが、しかし。
不本意とは言え人から貰ったものを棄て難い。
どうしようか、と思っていたところで、部屋のドアが開かれた。
「次の星に着く。準備をしろ」
ドアが開かれると同時にそんな声が聞こえて、ふわりと漂う煙管の臭い。
慣れたそれにあわせるように振り向くと、そこにいた晋助が奇妙な顔をした。
「…何?」
「それはこっちのセリフだ。何て顔してやがる」
顔?と首を傾げると、大股で近付いてきた彼が私の手から本を攫う。
このまま彼が処分してくれたら、なんて人任せな事を考えてしまった。
「来島が言ってた本か」
「聞いたの?」
「あぁ。くだらねぇ内容らしいな」
どうやら、彼のほうはその内容まで聞いているらしい。
もちろん、また子がくだらないと思っているはずはないから、そこの部分は彼なりの感想なのだろう。
「勧善懲悪。その概念で行くと、私たちは負ける側ね」
「信じるか?」
「まさか。私は…私の認めたもの以外は信じない」
例え世界の全てが正義を望んでいたとしても。
自分の信じる道を進むだけだ。
迷いなく答えた私に、晋助は唯一の目を細めた。
そして、悪戯に手の中で遊ばせていた本を放り投げ、その手で私の顎を取る。
「お約束の展開とはいかねぇだろうな」
「ええ、現実はそう優しくはないわ。もちろん、するつもりもないでしょう?」
負けるつもりなど、ないのだから。
確信めいた言葉を投げかければ、彼は満足げに口角を持ち上げた。
「ねぇ、晋助。私たちが悪だとすれば…正義は、誰なんだと思う?」
本が放り投げられた先、ゴミ箱を見つめながら、そう問いかける。
晋助はフン、と鼻を鳴らした。
「正義なんざ興味ねェな」
「うん。ご尤もで」
納得して頷きながら机の上のマッチを引き寄せ、その一つに火をともす。
燃えるそれをステンレスのゴミ箱の中に落とせば、瞬く間に灰と化す本。
―――彼が負ける未来なんて…いらない。
本であったそれを見下ろす目は、酷く冷めていたと思う。
「行くぞ」
「ん」
踵を返すその背中に続く。
彼と共に歩むには、迷っている暇などない。
部屋を出た頃には、私の頭の中からは本の存在が消え失せていた。
【 終末の 展開 】 高杉 晋助 / 朱の舞姫