069.狂わせる
カチャカチャと音が響く。
並んでテレビに向き合う二人は、片方は真剣そのもの。
もう片方はと言えば、欠伸をかみ殺していた。
それも無理はない。
時刻を示す時計は、すでに3時を指している。
もちろん、夜の3時だ。
「なー、成樹。いつまでやる気だ?」
「勝つまでに決まっとるやん!こんな一方的なんあかん!」
「勝つまでって…始めてから6時間。一回しか勝ってないんだけど。まぐれが起こるまで協力しろってか」
無茶言うなよ、と欠伸交じりに答える。
いい加減にしてくれと思いつつ、コントローラーを操作する。
そろそろ眠らせてくれと訴える頭で捜査している割には、中々鋭い攻撃だ。
「あー!!またや!!」
「はい、残念」
「あかん!もう一回!!」
「つーか、もっとこまめにコンボを繋げよ。大技を狙うから隙を突かれんだよ」
「自分の攻撃が思いっきりタイミングを狂わせるんやん!」
「や、だって…大技狙いが丸わかりだから、つい」
そう言いつつも成樹はすでにキャラクターを選んで準備万端。
やめるつもりなど微塵もない彼に、はぁ、と肩を落とす。
そして、自分が一番使いにくいキャラを選んだ。
「…自分、そのキャラ嫌いっちゅーてなかったか?」
「あー…気の所為じゃないですか?」
「敬語の時点で明らかに誤魔化してるやん!苦手キャラで上手く負けようっちゅー腹やな!?」
時間の所為なのか、ゲームによる盛り上がりの所為なのか。
やたらと賑やかなテンションの成樹ならば気付かないと思っていたのだが。
目ざとくも選んだキャラに気付く彼にチッと舌を打つ。
「成樹」
「何や」
「俺は眠い」
「…そうらしいな。自分、さっきから欠伸しすぎや」
「だから、次の勝負で終わりにしよう。小細工なしの、一発真剣勝負」
「…しゃーないな。その案、乗ったるわ」
どの道、これ以上付き合わせると後が恐そうだと思っていたところだ。
このままだと消化不良のままに彼女がコントローラーを放り出してしまう気がする。
それくらいなら、最後と決めて勝負に臨んだほうが、まだ諦めも付くだろう。
「勝っても負けても文句言うなよ」
「自分も、負けた時に文句はなしやで」
「はいはい」
これで最後ならば、とお互いに気合を入れる。
「…ちょ、そこで右ストレートはなしやろ」
「ドンドン行くよー。あ、コンボ止まった」
「何十戦もやったんや。侮ったらあかんで」
「と言いつつ、すぐに大技だな。はい、あと半分」
「だー!!自分、ちょこまかしすぎや!!ゲージが溜まらんわ!!」
「誰が溜まるまで待つんだよ。普通、止めるだろ」
「そう言うとる間にも技しかけとんかい!いつ溜めとんの!?」
「お前が文句言ってる間に」
テンポよく会話をしながら、あと少しで成樹のキャラを倒すと言う場面。
もう一息だな、と思ったところで、ピシャーン、と言うかドーンと言うか…とにかく、轟音が鳴り響いた。
そして。
「「あ」」
消える電気。
真っ黒なテレビ画面。
「…停電?」
「…マジで?」
闇に包まれた部屋の中。
二人してコントローラーを手に画面を見つめる。
お互いに、間抜けな表情をしているのだろう。
電気が回復したのはそれから15分も後のこと。
もちろん、もうすぐ終わる予定だった試合も消えていた。
あっけない幕引きに、二人して乾いた笑い声を零す。
【 狂わせる 動き 】 佐藤 成樹 / Soccer Life