068.恐れる

いつからだったのか。
一番古い記憶の中でも、それは存在していた。
クルタとしての本能だったのかもしれない。
あるいは、大人たちからの洗脳的なものだったのか。
今となっては誰かに聞くことも出来ず、ただそれと共に生きていく。
そうして、彼女…アイス・ドールが生きている限り、ずっと続いていくのだろう。





「クラピカ。あなたは、これから成長して、大人になっていくの。周りがどれだけ変わろうと、これだけは変わらないわ。クルタの氷宝を、守っていくのよ」

夢の中で、柔らかく微笑んだ母親が、そう語る。
氷宝と言うものが何を示すのか、幼い私には、わからなかった。
けれど、自分に守らなければならないものがあるのだという事だけはわかっていたのだと思う。
うん、と強く頷く、過去の自分。

「クラピカ!何故彼女を連れ出したりしたんだ!!」
「違うよ!僕が連れ出したんじゃない!僕はただ、一緒に行かないかって誘われて…」
「…はぁ。クラピカ。彼女を村の外に出してはいけないんだ。村の外は危険がいっぱいで、守り抜くことが難しくなってしまう」

よく遊んでくれた隣の男の人が、諭すように語る。
場面は変わり、哀しげな表情を浮かべる彼女が見えた。

「…ごめんね、クラピカ。幼いあなたまで、こんな…」

彼女は、いつでも自分自身のおかれている環境に疑問を抱いていた。
何故、同じクルタ族でありながら自分だけは真綿でくるむように守られなければならないのか。
そう言って嘆く彼女を、誰よりも近い場所で見ていた。
きっと、彼女は家族にはその心の内を明かすことができなかったのだ。
家族もまた、彼女を別格に扱ってしまっていたから。
それに気付いた時、私の中に彼女を守らねばと言う思いが生まれた。
それは、クルタとしての本能だったのか、それとも私自身が彼女に抱いた感情だったのか。

―――あの子は村の宝なの。
―――失ってはいけないよ。次の氷宝が生まれるのは、ずっと先だ。
―――大切に。
―――守って。


幾度となく言い聞かせられ、それが当然なのだと思っていた。
村を出ようと思うと言う彼女の言葉を聞いたとき、初めてそれに疑問を抱いたのだ。
彼女は、同じクルタ族だ。
自分ではそう思っているのに、特別だと神の子の様に扱われる彼女。
彼女自身は、そんな風に扱われることを望んではいなかった。
守られるべき存在ではないと、そう思い続けて苦しんでいたのだ。
一番の理解者だと思っていたこと自体が驕りであったことを知る。


「そして、あの日…か」

忘れもしない、クルタ滅亡の日。
命辛々逃げ出したあの瞬間、私は守らなければならないと思っていた彼女を忘れた。
ただ、己の命を生かす為だけに、必死だった。

震える膝を拳で打ちつけ、恐怖に怯えながらも村に戻った時、幻影旅団の姿は既にどこにもなかった。
代わりに、緋の眼を奪われた同胞たちがその場で沈黙しているのを見て、私は後悔した。

―――奪われた。
―――奪われた、大切な、クルタの氷宝が。


声なき骸が、そう嘆いているような気がした。

同胞の敵討ちと、彼女の奪還。

私の中に、二つの使命が生まれた。

【 恐れる 人々 】  クラピカ / Ice doll

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

09.04.27