067.殺めるべき

黒い死覇装に身を包み、刀を振るって同胞を殺していく死神。
死神に言わせれば、刀で斬る事により虚となってからの罪を洗い流すという。
それで、生前の魂は救われる。
けれど、虚として生まれた自我はどうなる?
自分がどうやって生まれて死んだのかも覚えていない。
覚えているのは、魂魄を食らう本能だけ。
数多の魂魄を食らい成長した私は、理性を得た。
同時に、自我も生まれている。

「何故、我々が悪と決められねばならないのだ」

一人の死神に、そう問うた事もある。
死神はふざけるなと声を上げた。

「本能のままに魂魄を食らい、秩序を破壊する貴様らを野放しには出来ない」

そう言って刀を向けてきた死神を殺す。
これで、罪は更に深まった。
更に格上の死神が私を殺しに来るだろう。

「所詮は、相容れぬ存在…と言うわけか」
「確かに。死神と虚は、相容れぬ関係。けれど、それを改善してみたいと思わない?」

ふと、背後から声が聞こえた。
もう尸魂界からの援軍が届いたのだろうか。
ゆっくりと振り向いた私の視界に、一人の女の死神が入り込む。

「女。私の命を奪いに来たのか」
「いいえ。私が望むものは、他にある」
「ほぅ…殺めるべき敵を前に、その命以外に何を望む?」
「虚圏に秩序を。その為に、あなたの力を望む」

臆すことなく受け答えする死神の目は、嘘偽りのない光を宿している。
その強い眼差しに、私は目の前の死神が敵であることを忘れた。

「…あの無法地帯に、秩序を?馬鹿馬鹿しい世迷言だ」
「世迷言ではなく、現実のものにしてみせるわ。頂点に立つのは、私ではないけれど」
「死神風情が我ら虚の上に立つと言うのか?」

世迷言ではなく、気違いだったのか。
たった一人で破面の前に立つ度胸は認めるが、発言は無謀以外の何者でもない。
呆れた風に答えた私に、死神は何も言わず目を細めた。

「卓上の空論だと言うならば、我々を殺せばいい」

背後から、別の声が聞こえた。
全く察知することの出来なかったそれに、驚きをあらわにして距離を取る。
大虚となり数百年。
背後を取られたことなど、ただの一度もなかったというのに。

「…来てしまったの?」
「随分と時間をかけているようだったからね」
「………ごめんなさい。私の所為なのかしら」
「気にすることはないよ。他の破面に声をかけたついでだ」

後からやってきた死神は、穏やかで…それでいて、平伏したくなるような空気を纏う死神だった。
女の死神との会話を終えた死神が、改めて私に向き直る。

「我々を殺すことが出来たならば、発言が卓上の空論だったということを認めよう」

試してみるかい?
そう問われ、ほんの少しの霊圧が波動となって私に降り注ぐ。
とてもではないが、勝てる相手ではなかった。
即座にそれを理解した全身の細胞が、死神に頭を垂れる。

「―――賢明な判断だ」

膝をついた私に、昨日までの敵…今この時より主となった死神が、静かに笑みを落とした。

【 殺めるべき 】  逃げ水

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09.04.26