066.久遠

「聞いたわよ~」

下校準備をしていた所に、親友からの声がかかる。
学校指定の制服に身を包んだ親友は、どこか意地悪な笑顔を浮かべていた。

「サッカー部のエースに告白されたんだって?将来有望な子でしょ?」
「子って…二つしか違わないわよ」
「二つでも年上であることに変わりないでしょ。で、どうだった?格好良いって噂よ、彼」

パタパタと足音をさせて近付いてくる親友に構うことなく、革靴に履き替える。
自分も靴を替えて後を追ってきた親友は、自分の隣に並んで続きを請うた。

「…どうって言われても…一生懸命だったわね。顔立ちも悪くなかったと思うけど」
「じゃあ、もしかして…」
「お断りしたわよ」

きっぱりと答える自分に、親友はがっくりと肩を落とす。

「何で~?有望株なのに!」
「何でって…大学受験を半年後に控えてるのに、遊んでいられないでしょう?」
「アンタの頭なら少しくらい高校生活をエンジョイしても大丈夫じゃないの」
「油断して後悔したくはないの」

取り付く島もない。
まるで自分のことのように肩を落とした彼女が、そう呟いた。

「結局、あの子もアンタの食指を動かせるほどの人間じゃなかったって事か…」
「まぁ、否定はしないわ」
「アンタ、一体どんな人ならOKなの?」

親友にそう問われ、改めて自分の理想を考えてみる。
理想通りの恋人を得られるかどうかなどわかったものではないけれど、望む事は自由だ。

「…背中が、頼れる人」
「は?背中?」
「そう。安心できる背中を持っている人、かな」
「男は背中で語れって奴?」
「少し違うけれど…。…責任感があって…ちゃんと、その背中に大切なものを背負っている人が理想なんだと思う」

今の若年層は、何事に対しても諦めが早い。
大切なものを持つこと自体を恐れていたり、あるいは避けている風潮がある。
そうではなく、大切なものを持っていて、きちんと向き合っている人。
そう言う人が、理想だと思った。

「…アンタの相手は絶対に年上よね。今の若者にそんな包容力のある男はいないわよ」
「そうかな?」
「そうそう。10歳くらい年上のおじ様を連れて来た日には私…泣きそうだわ」
「いるかもしれないわよ?世界は広いんだから」
「どこの世界にアンタの理想を叶えられる男がいるって言うのよ。少なくとも、今のご時勢ではありえないわね。昔…それこそ、戦国時代まで戻ってみれば話は別かもしれないけど」

自分でそう言っておきながら、彼女は、あ、と声を上げた。

「アンタの理想って、伊達政宗みたいな人なのかな」
「独眼竜政宗?」
「多分…いや、絶対、アンタが思い浮かべた伊達政宗じゃないと思うわ」
「…また、ゲームの話?飽きないわね」
「そりゃそうよ!やりこむ人間ですから!あのゲームの政宗って凄く格好良いのよ!元親には負けるけど!」
「はいはい。また元親談義が始まりそうね。今日は居合の稽古があるから先に帰っていい?」
「花の女子高生が居合の稽古!…青春時代を見送っちゃうわよ?」
「別に構わないわよ。出会うべき人なら、いずれ出会うわ。会えるかどうかもわからないような人を探して無駄に時間を過ごすより、今すべき事をやる方が大事」
「…はぁ。アンタらしいわね。行き遅れないことを祈るわ。顔も性格も良いんだから、勿体無いわよ」
「ありがと」

納得させることを諦めた親友は、頭の後ろで腕を組んで彼女の隣を歩く。

「政宗が実際にいればなー。どうにかなりそうな気がするんだけど」
「どんな人?」
「奥州筆頭。青い衣服に似合わず熱い心の持ち主だけど…誰よりも、奥州を愛している人。凄く信頼されてるわ。部下の人や…きっと、下々の人たちにも。若輩ながら天下取りに名乗りを上げて、諸国の猛将たちと対等に渡り合うの」
「そう。…ゲームの中とは言え、素敵な人ね」
「日本の中にあの政宗に心を奪われてる人がどれだけいると思ってんの。すごーく素敵な人よ。惜しむらくは、彼が遥か昔の人って事ね」
「それ以前に、フィクションの人でしょう?例えば今の日本から数百年戻ったとしても、その伊達政宗には出会えないわよ」
「そうよね…。ただのタイムスリップじゃなくて、世界まで超えなきゃいけないのよね。…厳しいわ」
「ただのタイムスリップなら…あの数百年もすれば、何とかなってるかもしれないけれどね」
「八百比丘尼じゃあるまいし、あと数百年も待てないわよ」
「まぁ、それもそうね」
「あの世界にいけるなら、戻って来れなくても後悔しないと思うわ。絶対元親を探し出すの」
「…そんな風に誰かを思える所は、素敵だと思うわ」
「アンタだって、いつかはそう言う人に出会えるよ、きっと。ま、ゲームの中の人に運命を感じてる時点で、私も似たような状況だけどね」

【 久遠の 理想 】  親友 / 廻れ、

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09.04.24