062.朽ちた
隣に立つ彼女が、凄い、と呟く。
自分よりもいくらか幼い彼女は、時折少女のように感情を豊かに表現する。
しかし、目の前の歴史ある樹を前に、静かな感動を表した彼女は、年齢以上の雰囲気を見せた。
「これ、樹齢何年くらいかな…」
「そうね…1000年、と言ったところかしら」
根の成長から年数を予測すると、彼女が溜め息を零した。
その心中では、1000年と言う年月の長さが様々な物差しで測られているのだろう。
きっと、長すぎる年数を実感するに十分な物差しは持っていないだろうけれど。
「でも…残念ね」
「何が?」
「ほら、ここよ」
そっと指差した個所を見て、彼女は首を傾げる。
興味はあるようだけれど、まだまだ知識が足りないのだろう。
「朽ちているわ」
「…ってことは」
「この樹は、残念ながらもう死んでいるってこと」
これだけ歴史を感じさせる大樹が死んでいるのはとても残念なことだ。
彼女もそれが理解できたのか、神妙な面持ちで肩を落とす。
「もう再生はしないの?」
「いくら植物が強いと言っても、根がやられているから…流石に難しいでしょうね」
「そっか…」
そう呟いた彼女は、トンと地を蹴る。
足音もなく枝に降り立った姿は、漆黒の猫のそれだ。
朽ちている樹をこれ以上傷めぬようにとそうしたであろう彼女の心中は、想像するに容易い。
その小さな心遣いが優しかった。
「残念だね。ずっと…色々なものを見てきたのに」
そっと目を伏せ、幹へと額を寄せる。
その姿は猫だと言うのに、酷く人間味を感じさせた。
「歴史に興味がある?」
「嫌いじゃないよ。昔があって、今がある。この瞬間さえも未来へと繋がる道だから」
振り向いた瞳の強さに目を細めた。
彼女の幼馴染とは違い、随分と深い思考を持っているようだ。
普段はルフィと一緒になって楽しんでいる彼女だからこそ、そこにギャップを感じる。
いや、しかし―――振り返ってみると、彼女は一緒に楽しんでいるように見えて、いつでも少し大人びた行動を取っていた。
どちらも彼女なのだろうと思う。
「教えてあげましょうか」
「ロビンが?」
「ええ。色々と、知りたいのでしょう?」
「…迷惑じゃない?」
その問いかけに表情を緩める。
どこまでも優しい子だ。
「歴史に興味を持っている。考古学者としては、嬉しい発見よ」
「じゃあ、お願い」
彼女は嬉しそうに笑った。
走り出した彼女の背中から、朽ちた樹へと視線を動かす。
この大樹も、いずれは倒れ、地に還る。
そして、そこに新たな植物が芽吹く。
残念だ、と悲しげな表情を見せた彼女にそれを教えたら、どんな表情を見せてくれるだろうか。
【 朽ちた 樹木 】 ロビン / Black Cat