060.舞い散る

緋色の花びらが、ひらり、ひらりと風に舞う。

「コウ!」

こんな所にいたのか、と背中に声をかけてきたのはフリックだ。
離れていた時間も数えるならば、数年来の仲間と呼べるだろう。
コウ自身が、ティルの次に信頼を置く人物だと言っても過言ではない。
始まりのあの日、彼がコウを拾ってくれなければ、今の彼女はありえないからだ。

「リオウが探してたぞ。シュウが呼んでいるらしい」
「そう言えば…呼ばれていたわ」
「お前な…。自由気まま過ぎるだろ…」
「フリック」

呆れるフリックを他所に、コウは真剣な声で彼を呼ぶ。
その声の変化に気付いたのか、彼は口を噤んで彼女を見た。
彼女の視線は彼には向けられておらず、大樹と呼ぶに相応しいそれへと向けられていた。
緋色の雨を降らせるそれを見上げる彼女に釣られるようにして、フリックも視線を移す。

「似ていると思わない?」

主語のない言葉。
しかし、コウの考えていた通り、フリックには伝わった。

「………あぁ、そう…だな」

似ている。
気高くて、美しくて…そして、優しかった人。

「散歩をしていて、見つけたの。あなたなら…きっと、わかってくれると思っていたわ」
「確かに、ビクトールには厳しいだろうな」
「彼には無理よ。人には向き不向きがあるんだから」

クスクスと笑う。
そこに不快感を覚えないのは、彼女がビクトールを貶しているわけではないからだ。

「ティルはどうだろうな?」
「彼もわかるわ」
「やけに自信たっぷりだな?」
「だって、彼と一緒に見つけたのよ」


―――ティル、あれ…。
―――…中々、壮観だね。
―――………ねぇ、ティル?この花…。
―――うん。コウと同じ事を考えてると思うよ。この花は…彼女に似てる。



あの時の会話の内容を説明すると、フリックは「そうか…」と穏やかに微笑んだ。
そんな彼の反応を見て、オデッサの死を知った時の彼とは別人のようだな、と思う。
愛する人を喪った彼のティルに対する態度は、随分なものだったことを覚えているから。

「オデッサが見たら、きっと笑うわね」
「コウ?」
「何でもないわ。気にしないで」

軽く誤魔化した彼女は、再びその樹を見上げる。
風が吹けば、より多くの花びらが空へと舞い散った。

「次の戦いで、この樹が殺されないといいんだが…」
「…大丈夫よ」
「…また、自信満々だな。理由があるのか?」
「ここを戦場にしなければいいだけの話よ。シュウと話をつけるわ」
「…同盟軍の軍師を動かせるのか?」
「こっちにはマッシュの師事を授かったティルがいるのよ?」
「…愚問、だな」

納得する彼に、そう言うこと、と微笑む。
彼女に似ていると感じたものを、どうして戦いに巻き込むことが出来ようか。
何としてでも、避けてみせる。
そんな強い意志を感じる横顔に、フリックは小さく笑みを浮かべた。
今も昔も変わらず、彼女はその強い眼差しで周囲を惹き付ける。
ティルとは違うカリスマを持つ彼女は、正しく王族と呼ぶに相応しい何かを持っていた。

「フリック?」
「…いや、何でもない。気にするな」

先程とは逆の会話をして、それに気付いた二人が笑う。
そんな二人の笑い声に誘われるように、花吹雪が二人の間を吹きぬけた。

【 舞い散る 花吹雪 】  フリック / 水面にたゆたう波紋

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09.04.16