057.微笑ましい
縁側に座り、団扇を片手に胡坐をかく男、銀時。
汗をかくような気候ではないけれど、首筋がほんの少し汗ばんでくるような陽気。
こんな中でわざわざ汗をかこうなんざ、馬鹿のやることだな。
そんな事を考えながら、いつもと変わらずやる気のない目で庭先を見る。
「はい、残念」
「悔しいぃー!また負けたアル!!」
「神楽ちゃんに負けるようじゃ、この先は厳しいわね」
「もう一杯やるヨ!」
「…神楽ちゃん、それを言うならもう一本だよ。飲み会じゃないんだから」
木刀を手に持った彼女は、悔しがる神楽とそれを宥める新八を見て、穏やかに微笑んでいる。
銀時は、その容姿からは想像も出来ないほどに鋭く深い一撃が繰り出されることを知っていた。
彼女がどれだけ手加減して神楽たちの修行に付き合っているのかを理解している彼は、物好きだな、と思う。
同時に、衰えを見せない彼女に、生きてきた世界が違うのだということを深く認識させられた。
「次は僕の番だよ、神楽ちゃん。―――お願いします」
「…むー…仕方ないアル。後で再戦を挑むアルヨ!」
「はいはい。…どこからでもどうぞ?」
彼女の言葉に答えるように、真正面から踏み込んでいく新八。
そんな捻りも何もない攻撃は、彼女ならば目を閉じていても回避できる。
もう少し考えろよー、と思っている銀時の視界の中で、新八が5歩近くも後ろに飛ばされた。
何故、彼女がここにいるのか。
高杉はどうしたのか。
これから、彼女はどうするつもりなのか。
ふらりと現れた彼女に、いくつも浮かんだ質問を投げかけることが出来ないでいる。
どれか一つでも口にしてしまった瞬間、彼女は夢のように消えてしまいそうだと思ったからだ。
「…面倒なこったな」
そう呟いて、ガシガシと頭を掻く。
ふと顔を上げて彼女を見ると、彼女は笑っていた。
戦の最中に見せた険しい表情はどこにもなく、今の状況を楽しんでいる。
昔…戦に出ていなかった日、皆で騒いでいたあの時の表情よりも、生き生きしている。
あぁ、コイツはコイツで、今の世をちゃんと生きてんだな。
今の彼女が何をしているだとか、何を考えてここに来ているだとか。
彼女の表情を見ていると、そう言う事は、とても小さいものに思えてきた。
いいじゃないか、彼女が笑っている。
それを確認できただけでも、十分だ。
「…いっちょ、童心に返ってみますか…」
クッと口角を持ち上げた銀時は、腰に挿している木刀を抜き、縁側を離れた。
そして、今しがたすぐ傍まで吹っ飛んできた新八の肩を叩く。
「新八ィ。選手交代だ」
「え?銀さんがやるんです?」
「ま、偶には身体を動かすのも悪くないかと思ってな」
そう言って、木刀を肩に担いで彼女と向き合う銀時。
背後で新八と神楽がコソコソと何かを言い合っていた。
「どうするよ、新八!銀ちゃんがおかしくなったアル!」
「明日は雨だね、きっと!もしかすると槍が降るかもしれない!」
「雨は嫌ヨ!それに槍なんか降ってきたら、私の傘が穴だらけになってしまうネ!」
「…随分と色々言われてるみたいだけど?」
「好きに言わせとけ。あいつらは俺と言う人間を勘違いしてる節があるからな」
「…勘違いじゃないと思うわ。怠けない銀時なんて、夜に太陽が昇るくらいありえないわ」
「え?俺が動くと天変地異レベルってこと?ちょっと酷くない?」
【 微笑ましい 姿 】 万事屋メンバー / 朱の舞姫