052.繋いだ
牢の中ででかい態度で物を言い続ける男、刀狩の張。
解放されることを望まぬ彼にその理由を問うと、一つ目の説明に続けるようにして「それにな」と別のことを話し出した。
「志々雄さんのとこにはえらい別嬪な姉ちゃんがおるんやわ。
色気ムンムンのとちゃうで。いや、無いわけやあらへんけどな」
「その姉ちゃんがどうしたよ?まさかそれだけじゃねぇよな?」
の言葉に、張は片眉を吊り上げた。
しかし、言っても無駄と判断した彼は、佐之助の言葉には触れず、続ける。
「雪耶紅っちゅーんやわ、その人。志々雄はんが唯一信頼しとる人で、その人も信頼しとるんは志々雄はんだけや。幕末からの付き合いらしいなぁ」
思い出すように紡ぐ辺り、彼もそう詳しくはないようだ。
少なくとも、頻繁に昔を語るような連中ではないことがわかった。
ふぅ、と白い煙が吐き出される。
「…雪耶、紅…か」
藤田、こと斎藤一が、静かにそう呟く。
忘れぬように繰り返しているというよりは、何かを思い出しているようだ。
幕末の動乱を生きた彼もまた、彼女を知っているのだろうか。
「その人に会いたないねん。勝手して捕まったなんてバレたら、一瞬でお陀仏やわ」
「強ぇのか?」
「…便利上、二番手は瀬田やけどな。
実際は、あの姉ちゃんのが遥かに強い。瀬田の剣術を鍛えた本人らしいわ」
二番手以上、と言う事は、実質的に彼女は志々雄に並ぶ実力者であるということだ。
瀬田宗次郎を知らぬ佐之助でも、その事実だけは理解できる。
女の身でありながら、志々雄と対等に渡り歩く人物―――いずれ、剣心の前に立ちはだかることは明らかだった。
「おい。その女は普段はどうしている?」
「さぁ?志々雄はんとはよう一緒やったけどな…ふらっと消えてまうさかい。わからんわ」
斎藤の静かな問いかけに、張は的を射ない答えを返す。
これ以上彼の口から雪耶紅に関する情報を得ることはないと判断した斎藤は、短くなった煙草を消してから踵を返した。
少しでも多くの情報を得ようと思っているのか、無駄な足掻きを続けるつもりらしい佐之助を牢に残して。
「姉さん。帰ってきませんね、刀狩の張」
「…そうね」
「どうします?出かけるなら、志々雄さんに伝えておきますよ」
「………あの程度の小者、放っておいても害はないわ」
「小者かー。あれでも一応十本刀の一人ですよ?」
「負けるような者は十本刀とは認めない」
「うわー…厳しいな。僕が負けても、同じですか?」
「あなたを特別扱いした覚えなんてないけれど?私は、実力相当の扱いをしているだけよ」
「なるほど。だから格差が酷いんですね!」
「…可愛い顔してそれを言うあなたも十分酷いわ」
「あはは。………捕まって、全部喋っていたらどうしましょう?」
「支障はない。私の前に姿を見せたら…その時は、生きては帰さないけれど」
「じゃあ、会わない事を祈ってようっと。同僚の死体は見ていて気持ち良いものじゃありませんから」
「だから、笑顔で言うことじゃないわよ、それ」
【 繋いだ 命】 るろうに剣心