051.賑やかな

勝利に沸く彼らに水をさすような野暮な事はしない。
いつも賑やかな彼らだが、いつもに増して騒がしい。
まもりと共に試合の荷物を片付けながら、紅は小さく微笑んだ。
そんな彼女の表情を見たまもりが、嬉しそうに笑う。

「紅も機嫌が良いね」
「そりゃ、ね」
「試合に勝って嬉しいから?」

彼女の問いかけに、紅は少し考えるように首を捻る。

「まぁ、それもあるけど…一番ではない、かな」
「えぇ?じゃあ、紅の一番って何?」
「さぁ、何でしょう」

はぐらかす様に口角を持ち上げた彼女は、開いていたパソコンを閉じ、バッグの中に片付ける。

「もう、教えてくれてもいいじゃない」
「簡単に教えちゃ面白くないでしょ?考えればいいんだし」

紅の言葉に、確かに一理あると思うまもり。
ヒントも何もないけれど、彼女がこう言うからには、考えてわかることなのだろう。

「うーん…勝ったことが一番じゃないなんて…何なら納得できるの?」

今の状況からすると、やはり勝利が一番の嬉しいことだと思う。
彼女は自分よりもマネージャー歴が長い。
自分に以上に嬉しいはずなのだが。

「さぁ、何なら納得できるんでしょうね?」

隣の部屋から、何か派手な音が聞こえた。
更衣室が無事だといいけれど…と思いつつも、注意に行く気はない。
着々と片づけを済ませていく紅を見て、まもりは理解した。

「話す気はないんだね」
「…まぁ、平たく言うとそうなるね」
「もう!それならそうと早く言ってくれればいいのに!」

どれだけ悩んでも無駄じゃない、と頬を膨らませる彼女。
紅は苦笑を浮かべてからごめんね、と答えた。
そんな彼女に、まもりは溜め息混じりに時計を見上げる。

「そろそろ電車の時間もあるし…皆に伝えてくるわ」
「はーい。行ってらっしゃい」

ひらりと手を振った彼女に見送られ、部屋を出て行くまもり。
その数秒後に、再び部屋のドアが開かれた。
まもりではない、と言う確信の元振り向けば、そこにいたのはやはり彼女ではない。

「もう着替えたんだ」

早いね、と告げる相手は、既にユニフォームを脱いでいる蛭魔だ。
いつもと変わらずガムを膨らませつつ部屋に入ってきた彼は、紅に向かって手を差し出す。
何も問うことなく当然のことのように、彼女はノートを渡した。
ペラペラペラペラ、と速いペースでページを捲っていく彼の傍らで、最後の荷物をまとめ、バッグのチャックを閉める。

「…昔は、勝つこと自体難しくて…こんな風に賑やかな更衣室、知らなかったね」

隣の部屋からの賑わいを聞きながら、紅がそんな事を呟く。
蛭魔の視線が一瞬だけ彼女に向けられた。

「仲間が増えて、チームワークが生まれて…漸く、動き出した感じがする」

まもりに教えてあげてもよかったかもしれない。
けれど、この想いは自分たちにしかわからないものだ。
勝利よりも、いや、勝利と同じくらいに嬉しいという価値観。
小さく笑みを浮かべる紅に、彼は無言でノートを閉じる。
そして、それを持っていない方の手で、すれ違う彼女の頭をぽんと撫でて行く。

「―――帰るぞ」
「了解」

自分の担当の荷物を持ち上げて彼に続く。
確認の為に振り向いた先には、三人分ではない荷物が置かれている。
その光景に嬉しそうに微笑むと、彼女はそのままドアを閉ざした。
隣の部屋の賑わいは、依然として終わりを見せていない。

【 賑やかな 仲間 】  蛭魔 妖一 / ペチュニア

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09.04.02