049.黒い

彼女の為に探していたわけではなかった。
けれど、それを一目見た瞬間、彼女の為に手に入れようと思った。
ナミから小遣いとして手渡されたお金の三分の一と言う、全額を食料に当てるつもりだったルフィにとっては高い金額。
それでも、彼は手に入れたそれを大事そうに抱え、別行動をしている彼女を探す。
しかし広い町中で、ナミに連れ回されているであろう彼女が見つかるはずはない。
広場でぐるりと周囲を歩いていく人の波を見ていたけれど、そこに彼女の姿はなく。
少しだけ肩を落としてから、彼はそれが枯れてしまわないように気をつけながらも、自分の欲求を満たすべく、食材の並ぶ露店へと近付いていった。





「―――!!」

どこからか名前を呼ばれた気がして、顔を上げる。
きょろきょろと周囲を見回す彼女に気づいたナミが、その名を呼んだ。

「どうかしたの?」
「何か…呼ばれた気がして」

新しい服を探していたナミは、彼女の言葉に少しばかり警戒の色を見せた。
自分も同じように道行く人を一瞥し、彼女の方へと近付く。

「海軍?」
「…違うと思う」

嫌な感じはしない。でも、何だろう。
首を傾げつつ、その感覚が気になるのか、彼女は手にしていた服すら棚に戻してしまった。
元々服装に頓着しない彼女を、無理やりに連れて来たのだ。
磨けば光る逸材を濁らせておくのは、ナミとして許せなかったのである。
しかし、今まで以上に新しい服探しに身が入らない様子の彼女を見て、はぁ、と溜め息を吐き出した。

「―――!!」

彼女が再び何かに反応した。
ふわりと赤いリボンが揺れる。
彼女は店の外をじっと見つめ、そして呟いた。

「…ルフィだ」
「え?」
「絶対、ルフィ。呼んでるみたい」

確信を持って窓の外を見つめる彼女。
その視界には、棚に陳列された洋服など目に入っていないようだ。
まったく…と苦笑するナミ。

「服、選んどいてあげるから…行って来なさい。ちゃんとルフィを船に連れて帰ってきてよ?」
「うん!ありがとう、ナミ!」

大好き!と言ってナミの頬にキスをしてから、彼女は嬉しそうに店を飛び出していった。
猫と言うよりは犬だ。
すぐに見えなくなった彼女の事を思い、やれやれと肩を竦める。





「ルフィ!」

見つけた、と彼の腕を掴んだ彼女。
探していたとは言え、彼女を見つけられたわけではなかったルフィは、その行動に驚いた。
しかし、それが彼女の仕業であると気付くと、同じように屈託のない笑顔を浮かべる。

「よく見つけたな!」
「聞こえたのよ。…呼んでた?」
「おう!見つかればいいと思って呼んでたぞ!」

やはり、聞き間違いではなかったようだ。
ニコリと微笑んだ彼女は、ルフィの隣を歩き出す。

「ね、何か用事?もうお小遣いは全部使っちゃったの?」
「あ、そうだそうだ」

用を尋ねられ、思い出したように手を確認するルフィ。
しかし、さっきまでしっかりと握り締めていたものがなくなっている。
え!?と慌てたルフィは、自分の両手を確認したり、歩いてきた道を振り向いたりと忙しい。
そんな彼を不思議そうに見ていた彼女は、ふとルフィの半ズボンに何かが引っかかっていることに気付いた。

「ルフィ、これ何?」

ひょいとそれを拾い上げて彼に見せると、あ!!と彼の手がそれをもぎ取っていく。
どうやら、探していたのはこれだったようだ。

「よかった~!落としたかと思って慌てた」
「ふぅん。良かったね、見つかって」

まるで自分のことのように喜んだ彼女。
ルフィはそんな彼女に近付いた。
首を傾げる彼女に、動くなよ、と言ってその首元でごそごそと何かをしている。
近付いては離れ、うーん、と唸ってからまた近付いてきて、ごそごそと動く。
くすぐったいと思いつつ、彼女はじっと耐えた。

やがて、満足の行くものが出来たのか、よし!と頷く彼。

「出来たぞ!」
「何が?」
「あ、自分では見えないな。えーっと…」

周囲を見回した彼は、お店のガラスへと彼女を押し進めていく。
ガラスの前に立たされた彼女は、自分の姿…丁度、彼が触っていた辺りを見た。
いつも通り首に巻かれたリボンの、結びの部分に、何かの花がついている。
見覚えがあるような気がするのだけれど、思い出せなかった。

「…これ、何の花?」
「向日葵だ!同じだろ?」

同じ、と言うのは、その向日葵の花びらの部分。
普段見慣れているそれは黄色で、彼女の首元にあるものは、彼女と同じ黒色だ。
厳密には黒ではないけれど、それに限りなく近い。

「前に好きだって言ってただろ?気に入ったか?」
「うん。可愛い」
「そっかそっか!大事にしろよ?」

にしし、と笑う彼に、うん、と嬉しそうに微笑んだ。

生花のブローチは、そう長持ちはしないだろう。
枯れてしまう前に押し花にするのもいいかもしれない。
帰ってからナミに相談してみよう。
町の散策と称して駆け出したルフィに手を引かれながら、彼女はそんな事を考えた。

【 黒い 向日葵 】  ルフィ / Black Cat

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09.03.31