048.銀色の

あら、と視線をとめる。
いつの間にかデスクの上に置かれていた、手の平サイズのサボテン。
茶色の鉢に植えられたそれは、台の上に丸い頭が乗っているような作りの種類だ。
頭の部分には360度の方向に向かって白くて細い棘が生えている。
サボテンの種類に明るくない彼女は、それがなんという種類なのかはわからなかった。
しかし、どこか心惹かれるものがあり、誰が何の意図で置いたかもわからないそれを、デスクの日当たりの良い箇所に設置した。
尤も、誰が、と言う部分に関しては、この部屋に入ることのできる人間を考えれば、すぐに解決する。

とりあえず、枯れないようにとサボテンの事を調べ、適度な水遣りを続けること、数ヶ月。
その間、これを置いた人物、白蘭からの反応はない。
まぁいいか、と思いつつ迎えた、とある日。
少し留守したその間に、見慣れた光景に変化が見られた。

「?」

手の平に乗るほどの小さなサボテンが、まるで首輪のようなものをつけている。
首輪のような、と証したのは、細く繊細な鎖の先に、ちょこんと親指ほどの鈴がついているからだ。

「鈴…」

暗に、これは自分のものだ、と所有権を主張しているのだろうか。
それにしては、随分と長い間無言で放置している。
試しにその鈴に指先を触れてみると、リン、と言うか細い音が響いた。
その時、背後に人の気配を感じる。
振り向こうとした彼女は、そのまま首へと回された冷たい感触に、思わずその身体の動きを止めた。

「そろそろ理由をお尋ねしたいのですが?」

カチ、と首の後ろで留められたそれはネックレスで、サボテンが首に巻いているものと全く同じだ。
つまり、ペンダントトップの代わりにそこに鎮座するのは、銀色の鈴。
彼女はそれを確認してから、後ろにいる白蘭に問いかける。
彼はニコリと微笑んで、彼女の後ろから腕を伸ばし、デスクの上のサボテンを持ち上げた。
男性の大きな手で持ち上げると、その対比の所為かサボテンが酷く小さく見える。

「これね。町で見つけて…誰かさんを思い出したから、そのまま買ってきたの。可愛いでしょ」
「…こんな棘のある人物は一体誰でしょうね」
「うん。誰だろうね。棘があるけどない所もあって、偶に水をあげるだけで文句の一つもなくそこにいてくれる人」

そう言うと、白蘭は指先でサボテンの頭をなでる。
サボテンの棘は、真っ直ぐ向かっていかなければさほど危険度は高くはない。
触れる角度さえ心得ていれば、こうして愛でることも可能といえば可能なのだ。
とは言え、視覚と共に生きる人間は、見た目の棘に臆す。
こんな風にあっさりと棘のある部分を撫でる事が出来る人など、一握りだろう。
同じネックレスをつけている所為だろうか。
自分まで撫でられている様な、そんな不思議な感覚を覚えた。

「それ、プレゼント。この子とお揃いだから、返さないでね」

そう言われると、返しにくい。
サボテンを気に入っていることを知った上で、お揃いと言う部分を強調したのだろう。
言いたい事は山ほどあったけれど、どれも彼には無意味だという事は明らかだ。
息の塊を飲み込み、消化不良を起こしたかのように吐き出す。
それから、揃いだと思うと緩みそうになる表情を何とか引き締め、ありがとうございます、と呟いた。


後日、偶然サボテンを目にした部下が、この種類は絶滅種で、サボテンとしてはとても高額で取引されているものであると聞かされた。
その上、鈴つきのネックレスは日本円で数十万のブランド品だという。
流石の彼女も、その時ばかりは白蘭に問いただした。
尤も、彼の対応は柳に風。
全てが空回りだったという事は言うまでもない。

【 銀色の 】  白蘭 / 百花蜜

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09.03.30