045.真っ白な

部屋のドアを開くと、ガサッと何かにぶつかる音がした。
不思議に思って大きく開いたドアを動かし、顔を覗かせれば…そこには、一抱えほどの大きな花束があった。
花束と言っても色とりどりのものではなく…花は、一種類だけ。
しっかりとした重量を腕に伝えてくるそれを抱え上げると、その花束を隈なく探す。
こう言うものには署名入りのカードなどが付けられているものだが、探しても見つからなかった。
それにしても―――

「真っ白な薔薇…ね」

一点の曇りもない、真っ白な花弁をこれでもかと咲かせた薔薇に、緋色の包装と真っ赤なリボンがよく映えている。
選んだ者のセンスの良さが垣間見える花束であることは確かだ。
しかし――― 一抱えもある真っ白な薔薇の花束。
送り主がわからなければ、少しばかり不気味さすら覚えるものだ。
こんなに大きな花束を抱えている姿を見られれば、質問攻めにされかねない。
廊下に人気がなかったことを感謝しつつ、彼女は自室へと舞い戻った。

部屋の中に入った彼女は、ふと壁にかかったカレンダーに目を向ける。
そこの日付けを読み取り、あぁ、と納得したように頷いた。

「今日は誕生日だったのね…」

アクマと言う存在を知らず、平和に暮らしていたならば大切な日なのだろう。
しかし、彼女はエクソシストだ。
平穏とは無縁の生活の中にいる彼女は、いつしか自分の誕生日すら忘れていた。
今日は偶然休みが重なっていただけで、去年は確か―――任務だった。

今日は誕生日。
そして、部屋の前に置かれていた花束。
意味する所は簡単だ。
それと同時に、彼女はこの花束の贈り主を悟る。
彼女の誕生日を知る人物の中で、この花を選ぶ人といえば、一人だけだ。

「まったく…誰に運ばせたんだか」

束の中から抜き取った一輪を口元へと寄せる。
ふわりと香る薔薇のそれが、彼女の心を解してくれた。

「こんなものを選んでいる暇があるなら、帰ってきて顔を見せてくれることが一番嬉しいのに」

そんな事を呟きながらも、その表情はとても嬉しそうだ。
彼が忙しいという事はわかっている。
そんな中、貴重な時間を割いてこれを贈ってくれたと言う事が嬉しいのだ。

「“私はあなたに相応しい”…か。こんな花を贈れるのはあなたくらいですよ―――クロス」

そう呟いて、主に代わって彼女の誕生した日を祝福する白い薔薇に、軽い口付けを落とした。





「ありがとうございました」
『…唐突だな』
「ええ。まず、一言目でお礼が言いたくて」
『気に入ったか?』
「とても綺麗な薔薇ですね。こんな真っ白な薔薇を贈る事ができるのは、あなたくらいです」
『ふん…他所の男に贈られるなよ』
「もちろん。元帥、今どこに?」
『ドイツの片田舎だ。どうした?』
「私も贈り返したかったんですが…難しいですね」
『何を贈ってくるつもりだ?』
「―――真っ赤な薔薇を、一輪」
『………また、お前にしては熱烈な返事だな』
「…それだけ嬉しかったということですよ」

【 真っ白な 薔薇 】  クロス・マリアン / 羅針盤

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09.03.26