043.緑の
帰り道を並んで歩く二人。
不意に、河川敷へと目をやった成樹が、道を逸れて歩いていく。
何事だ?と首を傾げる彼女の視界の中、彼は斜面の草の上をザザッと滑り降りた。
そして、その中ほどでしゃがみ込んでいる。
意味のわからない行動に疑問符を抱きつつも、放置していくわけにも行かず…彼女もまた、斜面を滑り降りていく。
「何やってんだよ、成樹」
「いやー…クローバーが群生しとるなー思て」
そう言いながらも顔を上げず、群生しているシロツメクサを掻き分ける彼。
何歳の子供だ…と額に手をやった彼女は、顔を西へと向ける。
傾き始めた太陽は、まだ暫く暮れることはなさそうだ。
急ぎの用事があるわけではないし、とこれからの時間配分を考えてから、無駄な足掻きを諦めた。
つまり、彼の行動に付き合うことを決めたというわけである。
「見つかりそうか、四葉」
「いやー…これが中々見つからんねんで。簡単に見つかったら意味ないしな」
そう意気込む彼は、その時だけは顔を上げた。
いつまで経っても童心を忘れぬ男である。
「学校が早く終わって、会議の関係で部活も休みで…それなのに、河川敷で四つ葉探しか…」
健全な中学生として、どうなのだろうか。
もっとこう…青春を謳歌するというか、何と言うか。
四葉探しは子供のお遊びのように思えて、少し踏み込みにくい。
暇をもてあました彼女は、シロツメクサの群を踏まないように気をつけながら、斜面に腰を下ろす。
そして、心の中で川を挟んだ向こうの道を走る車の数を数えだした。
そうは言っても、決して大きくはない道だ。
車の通りなど疎らで、数えている方が眠くなりそうなほどである。
そんな車の数が既に30を超えようかと言う頃になって、緑の三つ葉とにらめっこをしていた成樹がその場に倒れこんだ。
「あかん…目が疲れてきたわ…」
「根性なし」
「全部同じに見える中から一つを探すんやで?疲れて当然や」
「あるかどうかもわからないものを探す労力が無駄だとは思わないのか?」
「身も蓋もない!自分、夢なさすぎやで!」
ビシッと指差しながらそう叫ぶ成樹。
何故か、テンションが異様に高いと思うのは気のせいではないだろう。
クローバーには洗脳的な作用でもあるのだろうか。
言うことだけを言って満足したのか、成樹は再び作業に戻る。
「こんな葉にご利益も何もあるとは思えないけどな…」
そう呟きながら、指先に触れたシロツメクサをぷちりと摘み取った。
それを自分の見える位置まで持ち上げ―――
「成樹ー…」
「何や?」
「探してるのって、何枚?」
「四葉に決まっとるやん。四葉!」
そんな当たり前のことを!と振り向いた成樹の鼻先に、摘み取ったそれを差し出す。
近すぎて見えなかったのか、拳一つ分仰け反った成樹は、目を見開いたままそれを受け取った。
一つの茎に、四つの葉が生えているクローバー。
所謂、四葉のクローバーが、そこにあった。
「何で!?」
「そう言えば、前に聞いたことがあるな。こう言うのは、案外何となく探した方が見つかりやすいんだって」
「そんな…あんまりや」
「ま、必死で掴もうとする奴より、自然に待ってる奴の所に舞い込んでくるって事だな」
ケラケラと笑い、項垂れる成樹を励ますように、その肩をぽんと叩いた。
【 緑の 四葉 】 佐藤 成樹 / Soccer Life