042.黄色の

「あ」

自室の窓を閉めようとしていた彼女が、そんな声を零した。
用があって彼女の部屋を訪れ、その後居座っていたイルミが顔を上げる。
彼女はどうやら窓の外…庭を見ているようだ。
その横顔が小さく微笑んだのを見て、自然と口を開くイルミ。

「何?」
「え?あぁ…うん。今年も咲いてるな、って思っただけ」

イルミが反応するとは思わなかったらしく、彼女ははにかむようにしてそう答えた。
何が、とは問わず、ソファーに沈めていた身体を起こす。
そして、彼女が立つ窓際まで歩き、同じように庭を見下ろした。
だが、彼女が何を見ているのかがわからない。
彼の眼下には、いつもと変わらぬ庭が見えるだけだ。
そんなイルミの心中を読んだのか、彼女はクスクスと笑う。

「庭師が手入れをするような花じゃないわよ」
「…そもそも、庭師が手入れしてる花ってどれ?」

思わぬカウンターに、彼女はぱちくり、と目を見開く。
それから、苦笑を浮かべて呟いた。

「…………………まぁ、花を愛でるイルミなんて想像できないけれど…ね」

そして、窓枠にかけていた手をスッと動かし、庭の端の方…日当たりの良い場所を指差した。
指先につられるようにそちらを見ても、やはり何が言いたいのかわからない。

「あそこ、黄色の花が咲いているでしょう?」
「…あぁ、あれか」

道理でわからないわけだ。
イルミの目から見ても、手入れをされている花とは違い、言ってしまえば雑草と賞されるような、小さな花がその一角に咲いている。
彼女は、それの話をしていたらしい。

「あれ、何?」
「蒲公英」
「…あんなのが好きだっけ?」

桜が好きだという話は聞いたことがある。
けれど、あんな雑草のようなものも好きなのだろうか。
意外と好みの範囲が広いな、と考えるイルミの横で、彼女はそれを否定するように首を振った。

「特別好きって言うわけじゃないわ。蒲公英は、綿毛になってからが好きなの」
「綿毛?」
「…イルミって、本当に植物はどうでもいいのね」

これ見よがしに溜め息を吐き出してから、彼女は部屋の隅の本棚へと歩く。
そして目当ての図鑑を手にとって彼の元へと戻り、目的のページを開いて見せた。

「花粉の代わりに種子を飛ばすのよ」
「ふぅん。…これが好きなんだ?」
「これが好きって言うか…そうね。虫任せにするより、風に乗って飛ぶって言う自由さが好きなの」

そう言った彼女は目を細めて空を見上げた。

「風に乗るのって気持ちいいわよね、きっと」

そうして風を堪能してから、思い出したように彼の方を見る。

「綿毛に変わったら教えてあげるわ」

ニコニコと遠くに見える蒲公英を見下ろす彼女を見て、イルミは心中で首を傾げる。
どこが楽しいのかはわからない。
だが…彼女が楽しいと思う、それだけで十分のような気がした。

【 黄色の 蒲公英 】  イルミ=ゾルディック / Free

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09.03.23