040.神秘的な

朝を告げる鳥の声よりも早く、ふと目を覚ます。
行軍を始めてから三日目。
二度目の野営は、霧の深い林の中で行われた。
すぅ、と深く息を吸い込めば、霧の中独特の湿気が口内を軽く潤す。
外套についた朝露を払い、ゆっくりと立ち上がった。

―――ここから東に行くと、湖がある。

氷景からの報告を思い出した彼女は、彼が東と指した方角を見る。
そして、外していた小太刀を腰に挿し、そちらへと歩き出した。
少し離れた所に陣を構えているはずだが、辺りはシンと静まり返っている。
朝日が顔を出すよりも早くに目が覚めた事が幸いしたのだろう。
音もなく歩く彼女の背中は、木々の向こうへと消えた。





「どこに行きやがった?」

目を覚ました政宗は、近くにいたはずの彼女の姿がないことに気付く。
そこにいた事を証明するように、折りたたまれた毛布がそこにあった。
それを手に取ってみればまだほんのりとぬくもりを感じる。
彼女が消えて、そう時間は経っていないようだ。

「………こっちか?」

辺りの草を見て、彼女が消えたであろう方角を考える。
踏みしめられた草が地面に横たわっている方を見た彼は、その先に何があっただろうかと記憶を探った。
確か、氷景が報告していたはずだが、その辺りは彼女に任せていた。
チッと舌を打ってから、彼女が消えた方角へと歩き出す。
この辺りはあまり物騒な噂は聞かないけれど、安全とも言い切れない。
彼女の腕は信頼しているが、だからと言ってそのままと言うわけにもいかないのが心情だ。

足跡を追うようにしていくらか歩いた所で、政宗の嗅覚が水のそれを捉える。
そこで、彼は氷景の報告を思い出した。

「湖か」

目的地がわかれば話は早い。
歩く速度も少しばかり速さを増した。
程なくして視界は開け、広い水面を持つ湖が現れる。
予想以上の規模にやや目を見開くも、彼の視線は既に別のものを探して動き回っていた。
しかし、目的の人物は見つからない。
ここではなかったのか?と思い始めた矢先、水面に気泡が生まれた。
次第に増えていくそれに、確信めいた思いと共に視線を向ける。
ザバン、と水中から姿を現したのは自分が探していた彼女。
こちらに横顔を向けている彼女は、何かに取り付かれたかのように、顔を出し始めた朝日を見つめている。
朝焼けが彼女の横顔を照らす光景に、言葉を失った。

「…綺麗だな」

思わず零れ落ちた言葉に、彼女が振り向く。
パシャン、と水が跳ねた。
声の主が政宗だと気付いた彼女は、どこか安心したように表情を緩める。

「ええ、本当に」

そう答えて、彼女は再び朝焼けへと視線を戻す。
その頬を雫が滑り落ちた。

「お前のことだ、馬鹿野郎」

朝焼けのご執心の彼女に、彼は笑いながらそう呟いた。
今度は彼女の耳には届かなかったらしく、振り向いた彼女は不思議そうに首を傾げている。

「何か仰いましたか?」
「いや、気にすんな。それより風邪引くぞ」

そう言って彼女に向けて手を差し出す。
そんな二人の様子を、優しい朝焼けが静かに見守っていた。

【 神秘的な 朝焼け 】  伊達 政宗 / 廻れ、

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09.03.20