039.混じり合う

彼女の自室として与えられた部屋は、ゲストルームよりは良い造りの部屋だ。
母の知人である彼女をぞんざいに扱う事は出来ないと言ったシエルの計らいだった。
形は、とある知り合いの筋から招いている家庭教師に相応の対応を…と言う事になっている。

眠る必要はないけれど、周囲にあわせてベッドに入り、休息すら必要ない身体を休める。
そうして夜も更けた頃、近付いてくる足音に、薄く目を開いた。
暗闇でも決して世界を見失うことのない目で室内を見回し、やがてドアの所へとそれを落ち着ける。
そこには、既に音もなく入室した黒い悪魔がいた。

「…夜更けに女性の部屋を訪れるものじゃないわ」

そう告げる彼女に、侵入者、セバスチャンは静かに目を細めた。

「愛しい人の部屋を訪ねる事も許されないと?」
「さぁ、相手次第じゃないかしら」
「随分と手厳しい」

ポンポンと軽い会話を交わし、二人の距離が縮まっていく。
そうは言っても、動いているのはセバスチャンだけで、彼女の方はベッドから起き上がることすらしていない。

「久しぶりに可愛がってあげようと思ったのに」

拒むのですか?と問う声が近い。
二人分の体重程度ではギシリとも鳴らない立派なベッド。
追加された体重の分だけ、彼女の身体が沈んだ。
横を向いていた身体は、肩を押されて否応無しに天蓋を見上げることになる。
しかし、天蓋が入るはずの視界には、既にセバスチャンが入り込んでいた。
爛々と輝く赤い眼が、飢えた肉食獣のような危険な色を宿している。

「あなたの場合は『可愛がる』と言うレベルじゃないわ」
「でも、嫌いじゃない」
「…まぁ、否定はしないわね」

彼との距離が限りなくゼロに近付いていくのにあわせるように、そっと瞼を伏せていく。
視界が閉ざされ、唇に熱が触れた。
その熱が目元、頬、顎と輪郭を辿り、白い首筋へと下りていく。

「物好きね」
「私に対する嫌味ですか?残念ですが、趣味は良いと思いますよ」
「私自身に向けた言葉よ」

緩く結っていた髪が解かれ、白いシーツの上に白銀の髪が波のように広がる。
その髪を一房掬い上げ、彼女の視界の中で軽い口付けを送った。
その様子を見た彼女は、照れるわけでもなく気だるそうに腕を持ち上げ、彼の漆黒の髪に触れる。

「…長い方が好きだわ」

ほんの少し滑らせただけで毛先に到着してしまう短い髪に、やや不満げな表情を見せる彼女。
そんな彼女の反応にクスリと口角を持ち上げたセバスチャン。
意識を集中させるでもなく、雪のように白い肌に唇を這わせつつ僅かに目を細めれば、彼の髪がざわりと伸び始めた。
立っていれば肩を越えたあたりまで伸びたそれを見て、彼女は静かな笑みを浮かべ、その指先に漆黒のそれを絡める。
嬉しそうな様子の彼女の唇を奪い、吐息のかかる距離で告げる。

「いつもの事ながら悪魔には似合わない白いあなたを抱くのは―――背徳的な気分ですね」
「信仰心も何もない人が言う事じゃないわ」
「それもそうだ」

楽しげな声を上げ、それ以上の反論を自身の口内へと飲み込んでしまった。
真っ白のシーツの上で、白銀と漆黒の髪が混ざり合う。

【 混じり合う 黒と白 】  セバスチャン / 白猫

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09.03.19