036.輝かしいほどの

「サンジさん」

神妙な面持ちでキッチンを訪れたコウ。
夕食の下拵えに取り掛かっていたサンジは、包丁を片手に彼女を振り向いた。
いつもならば、ルフィと同じようにサンジと呼ぶ彼女が、あえてサンジさんと呼ぶ理由はなんだろう。
皮を剥いているジャガイモをくるくると回しながら、サンジは彼女に声をかけた。

「おー。コウちゃん。どうした?お菓子なら、残りがそこに―――」
「ううん。違うの。えっと…お願いが、あって…」
「お願い?」
「…うん」

こくり、と頷くコウ。
少しだけ頬を染める彼女の姿は、興奮するには十分すぎる。
なけなしの理性を掻き集めて最後のジャガイモを剥き終え、包丁を置いた。
空いた手でふぅ、と煙草の煙を吐き出し、危ういながらも平静を取り戻す。

「で?コウちゃんのお願いって言うのは?」
「お菓子作り、教えて欲しいなって」
「…食べたいお菓子でも?」
「食べたいって…ルフィじゃあるまいし。作りたいの。サンジの作るのみたいに、美味しいお菓子」

そう言うのを教えてもらったことないから。
そう言って、照れたように頬を掻く。
美味しいと褒められ、教えて欲しいと頼られ…キッチンを預かる者として、断るはずがない。
二つ返事でOKすれば、パッと花開くような笑顔が向けられる。

「ありがとう、サンジ!!」

きゃー!と喜ぶコウは可愛い。
実の妹がいればこんな感じだろうなと思いながら、よしよし、と彼女の黒髪を撫でる。
女に弱いサンジだが、意外とコウには強かった。
コウがルフィしか見ていないからか、屈託なく笑う彼女が妹のように思えて恋愛対象にならないからか。
理由は、彼自身もわからない。

「下拵えを済ませちまうから、ちょっと待ってな」

猫の彼女を撫でる時と同じように頭を撫でてから、剥いたばかりのジャガイモを運ぶ。





「…コウちゃん、それ塩」
「あ」
「で、小匙はこっち。それは大匙」
「ふーん…これ、小、なんだ」
「…コウちゃん、ルフィに馴染みすぎだな」

そんなこんなと色々あったが、一時間と少し後。
無事出来上がったそれを前に、コウは満面の笑みを見せた。
味見、と一掬いして口に運んだそれは、初めてにしては十分すぎる。

「サンジありがとう!!」

興奮すると身体の調整が難しくなるのか、ぴょこんと猫の耳が髪の中に現れた。
それを目にして、煙草を取り落とすサンジの心中などお構い無しに、感激のあまり、彼の首に飛びつくコウ。
勢いのまま頬に軽いキスを送り、人数分用意できたそれを持ってキッチンを出て行った。



「これ、ロビンの分だって」
「………コックさんはどうしたの?」
「あれでしょ」
「…あら。また耳が生えてるわね」
「興奮すると偶に飛び出すの」
「子猫ちゃんには強いと思っていたけれど…」
「あー駄目駄目。猫耳の可愛さには勝てないわよ。凄い破壊力だもん。あたしだって可愛いと思うわ」

【 輝かしいほどの 破顔 】  サンジ / Black Cat

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09.03.14