033.消えゆく

彼女は、窓の外を見下ろすことが多かった。
高所が苦手になった彼女を考慮して、彼女の自室は高さを感じない2階に設けられた。
特別扱いされていたわけではなく、また彼女もそれを望んではいない。
色々と気にかけられ、将来的にはとても期待されている事は否めない事実だが、待遇面での配慮は断固として拒否した。
結果、他の部下となんら変わらぬ一室が宛がわれ、雑用染みた仕事も与えられる。
それでも、彼女は無駄口一つ零さずに、ただ只管与えられた仕事をこなした。
そして、空いている時間は自室に戻り、一人静かに時を過ごす。
長い間閉じ込められていた彼女は、それ以外に時間を過ごす方法を忘れてしまっていた。

「おい」

いつの間にか開け放たれたドアの所から声がかかる。
空を飛ぶ鳥を眺めていた彼女は、その視線を声の主、蔵馬へと向けた。
差し込んだ光が彼の銀髪を優しく照らす。

「今は暇か?」
「…見ての通りだ」

この盗賊団を率いる頭であろうと、彼女は傅く事をしない。
蔵馬はそんな彼女の姿勢に、九尾としての誇りを垣間見た。
誇り高い九尾だからこそ、誰かに媚び諂う事もなく、自身を貫くその姿勢が当然だと納得できる。
そんな彼女を、無理に従えようとは思っていなかった。

「なら、付いて来い」
「…仕事か?」
「似たようなものだ」

そう言って背を向ける蔵馬。
少し悩んだ末、彼女は彼に続くようにして部屋を後にした。





自分たちの庭と言っても過言ではない樹海を歩く。
蔵馬は一体何を考えているのか。
彼の思考を理解できぬまま、彼女は彼について歩く。
ふと、樹海の木々に目を向けた。
仕事でアジトを出る時は、いつも目的地まで一直線だった。
迷うということを知らない彼女は、流れていく風景に目をやったこともなく、こうしてゆっくりとそれを眺めたのは、今が初めてかもしれない。

「偶には部屋の外に出ろ」

急に声を上げる彼に、彼女は驚いたようにそちらを見る。

「好き好んで狭い部屋に篭って、手を伸ばせば届く空に焦がれる必要はないだろう」
「…そして仲間すら信じていない連中と交流しろとでも言うのか?」

冗談じゃない、と吐き捨てるように言えば、蔵馬が足を止めた。
特に何もなく、ここが目的地と言うわけではないだろう。
いや、そもそも目的地があるのかどうかさえ危うい。

「どいつだ?」
「気にするな。もう生きてはいない」
「殺したのか?」
「何故私があんな下賎な奴を手にかけねばならん。先の仕事の最中に死んだ。原因があるとするならば、己の過信だ」
「そうか」

大して気にした様子のない蔵馬に、彼女は疑問符を浮かべる。
仲間が死んだとして、この淡々とした様子は何だろう。
彼にとって、仲間は所詮捨て駒でしかないのか?

「解せない、と言う表情だな」

彼女の顔を見た蔵馬がそう苦笑を浮かべた。

「仲間を駒だとは思っていない。もちろん、全面的に信頼しているわけではないが…。他の仲間を信じようとしない輩は、いずれ障害になる」

芽を摘むのは早い方がいい。
あっけなくもそう告げる彼に、なるほどと思う。

「しかし…やはり、解せない。何故、それを私に伝える?」
「さぁ、何故だろうな。同じ妖狐だからか…お前は、信頼できる」

それが彼の本心ではない事は明らかだった。
しかし、信頼できるといった部分に偽りはない。

「…わざわざ、私を連れ出したのか」
「お前は自由の身だ。部屋に引き篭もる必要もないだろう」
「…物好きだな、お前は」
「人の事は言えんさ」

そう言って笑った蔵馬に、つられるようにして口角を持ち上げる。

その日から、彼女は少しずつ空いた時間を外で過ごすようになった。
アジトの中だったり、樹海だったりと場所は様々だったが、ただ一つ。
その隣に、蔵馬がいたと言うことだけは、変わらなかった。

【 消えゆく 】  妖狐蔵馬 / 悠久に馳せる想い

Menu(お題順) Menu(ジャンル別)

09.03.10