032.辿る
「そう、あの人がここに立ち寄ったのね」
不気味と形容するほかはない城を見上げながら、彼女はそう呟いた。
今しがた合流したばかりの彼女の隣には、草臥れた様子のアレンとラビ。
リナリーから二人と逸れてしまったと言う報告を聞き、一足遅く彼らを追っていた彼女はとりあえずアレンたちと合流することを決めた。
そして、クロウリーの城へと到着し、彼らと合流したと言うわけだ。
「もう少し早く来てくれるとありがたかったんですけど…」
疲れ果てた様子のアレンに、彼女は肩を竦める。
彼女の肩で、ふわりと蝶が踊った。
「これでも前の任務を終わらせてその足で来たのよ」
「あー…そりゃ、ご苦労さん」
「で?二人はどうしてこんな所で立ってるの?」
城に入る様子もなく、背を向ける形で立っている二人に、彼女がそう問いかける。
「クロウリーを待ってるんですよ」
「吸血鬼の?」
「寄生型のエクソシストでした」
「…あぁ、アクマの血を啜ったのね」
流石に、話が早い。
即座にそう理解した彼女に、二人は頷く。
「用意が出来るまで待ってるんです。多分、もうすぐ―――」
アレンの言葉を遮るように、ドォンと言う激しい爆発音が聞こえた。
驚いた様子で振り向く彼らの目に、炎上する城が映る。
一緒に来ると言った彼が、城と共に自殺でも図ったのか。
まさか、と言った表情の二人の眼前で、崩れ始める城から出てくる長身の男。
憂いを残さない為の『片付け』だったようだ。
「所で、この女性は…?」
「あぁ、彼女はコウ。同じエクソシストですよ」
「よろしく、クロウリー。コウよ」
「コウ、実は…」
自己紹介が終わった所で、アレンがコウにそっと耳打ちする。
驚き、そして呆れへと表情を変化させるコウ。
そして、懐から取り出した何かに、ペン先を滑らせる。
「この程度で足りるかしら?」
スッと差し出されたそれを受け取ったクロウリーは、見事に固まった。
その様子を見たアレンとラビが伸び上がってそれを覗き込む。
そして、二人もまた、クロウリー同様に目を見開いて固まる。
「………コウ!?何ですか、これ!!」
「何って…小切手?」
「そんな事説明されなくてもわかります!金額ですよ、金額!!」
「だって…あの人が借りるなら、そのくらいは普通でしょう?」
「そりゃ、師匠の借金は確かにこの程度はザラでしたけど…!だからって、ポンと小切手で出す金額じゃないですよ!!
ハッ!まさか、コウ…クロウリーが仲間になったから、どこかに借金でもして返すつもりですか!?」
「確かに仲間に借金はしないポリシーだけど、そうじゃないわよ。借金なんてしないわ」
「じゃあ、どこから出るんです!?この大金!」
「私の口座」
飄々とした様子で答えた彼女は、ニコリと微笑む。
後ろでは、ラビが小切手に指を滑らせながら「一、十、百、千、万…」と桁を数えている。
「ここ数年、随分と無茶をさせられたからね。教団から、しっかり色をつけてもらったのよ」
「………そんな、無茶苦茶な…」
「無茶なもんですか。一ヶ月休み無しで各国走り回って、普通の給料とか馬鹿みたいじゃない。冗談じゃないわよ」
フン、と鼻を鳴らした彼女に、アレンはガクリと肩を落とす。
「稼いだ分で借金を返してきてるから…半分くらいにはなったんじゃないかしら」
「本当ですか!?その能力、少しくらい師匠に分けてくださいよ!」
「でも、お蔭で私の口座も半分くらいになったわね…全額返す頃には、きっと空だわ」
「えぇ!?コウのお金なのに!?」
「ま、そうなったらまた稼ぐだけね」
騒ぐアレンと、淡々と答えるコウ。
二人の傍らで、ラビが呆気に取られた様子で口を開く。
「何か…不憫さ…」
片や、師匠の借金を肩代わりして、性格まで変貌してしまった少年。
片や、師匠の借金を返して口座を空に仕掛けている女性。
そんな師匠を持った二人があまりに不憫で、ラビは心の底からそう呟いた。
同意するように、クロウリーが頷く。
コウ自身は自分の口座が空になろうとあまり気にしておらず、寧ろ借金を返すことの方を重要視しているのだが…そんな彼女の心情など、二人は知る由もない。
【 辿る 足跡 】 エクソシスト / 羅針盤